「死にたい」と打ち明けられたら 自殺念慮への看護対応
看護師国家試験 第106回 午前 第109問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後1週が経過した。Aさんはベッドに横になりじっと窓を見つめていることが多くなった。看護師が何をしているのか話しかけると、Aさんは「死にたいと思っている」と答えた。 このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
- 1.話題を変える。
- 2.気分転換を促す。
- 3.すぐに良くなると励ます。
- 4.自殺しないことをAさんに約束してもらう。
対話形式の解説
博士
今回は双極性障害でうつ状態のAさんが「死にたいと思っている」と訴えた場面じゃ。看護師としてどう対応するのが適切か、という問題じゃよ。
サクラ
「死にたい」って言われたら、正直どう返したらいいか戸惑います…
博士
大事な気持ちじゃな。まず原則を押さえよう。自殺念慮を表出した患者には「TALK原則」で対応するのじゃ。
サクラ
TALKって何ですか?
博士
T(Tell:心配を伝える)、A(Ask:自殺について直接尋ねる)、L(Listen:傾聴する)、K(Keep safe:安全を確保する)じゃ。
サクラ
え、「自殺するつもりですか」って直接聞くんですか?刺激になりませんか?
博士
よくある誤解じゃが、自殺について直接尋ねても自殺行動は増えん。むしろ率直に話し合うことで患者の孤立感が減り、抑制効果すら認められておる。
サクラ
なるほど…。本問の「自殺しないと約束してもらう」というのはTALK原則の「K」の部分ですね。
博士
その通り。ノー・サスサイド・コントラクト(不自殺契約)といって、「次に話すまでの間、自分を傷つけない」と約束を交わすのじゃ。
サクラ
契約するだけで本当に効くんですか?
博士
契約自体の法的拘束力はない。しかし約束を交わす過程で「あなたのことを本気で心配している」というメッセージが伝わり、信頼関係が深まる。これが治療的に機能するのじゃ。
サクラ
他の選択肢も気になります。「話題を変える」はなぜダメなんですか?
博士
勇気を出して打ち明けたのに話題を逸らされたら、「聞きたくないんだ」「自分の苦しみは価値がない」と感じる。信頼関係を決定的に損なうのじゃ。
サクラ
「気分転換を促す」は?
博士
うつ状態では気分転換自体が重荷じゃ。散歩や趣味を勧めても動けない自分を責める結果となる。まずは気持ちを受け止めることが先決じゃ。
サクラ
「すぐに良くなる」と励ますのは?
博士
これはうつ状態では禁忌とされる典型例じゃ。本人は「もうどうしようもない」と絶望しておるのに、他人事のような励ましは「わかってもらえない」と絶望感を強める。
サクラ
励ましってダメなんですね…難しいです。
博士
代わりに「つらい気持ちを話してくれてありがとう」「一緒に乗り越えていきましょう」と共感的に応えるのがよい。
サクラ
うつ状態って、回復期も自殺リスクが高いって聞いたことがあります。
博士
重要なポイントじゃ。重度のうつでは行動エネルギーすら出ないが、回復期になると行動力が戻ってきて希死念慮を実行に移しやすい。退院前後も油断できんのじゃ。
サクラ
双極性障害ってうつと躁を繰り返しますよね。
博士
うむ。うつ相と躁相を繰り返すのが特徴で、躁転にも注意が必要じゃ。気分安定薬(リチウム・バルプロ酸など)が治療の柱になる。
サクラ
自殺念慮への対応って、知識だけでなく姿勢が問われるんですね。
博士
その通り。看護師の落ち着いた態度、批判しない姿勢、気持ちを受け止める力が患者の命綱になる。精神看護の核心じゃな。
POINT
自殺念慮を表出した患者への対応では、TALK原則(伝える・尋ねる・傾聴する・安全確保)が基本となります。「自殺しないと約束してもらう」不自殺契約は、信頼関係のなかで安全確保と治療的関係構築を同時に達成する重要な介入です。一方「話題を変える」「気分転換を促す」「すぐに良くなると励ます」はいずれも患者の訴えを軽視したメッセージとなり信頼関係を損ないます。特にうつ状態への安易な励ましは禁忌とされ、共感的受容が原則です。うつの回復期は行動エネルギーが戻り自殺リスクが高まる時期でもあり、継続的な観察と関わりが必要です。精神看護における看護師の姿勢は、患者の命を守る最前線として極めて重要な意味を持ちます。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後1週が経過した。Aさんはベッドに横になりじっと窓を見つめていることが多くなった。看護師が何をしているのか話しかけると、Aさんは「死にたいと思っている」と答えた。 このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。患者から自殺念慮の表出があった場合、看護師はその気持ちを真剣に受け止め、具体的な自殺行動を防ぐための約束(ノー・サスサイド・コントラクト)を交わすことが有効とされる。「今は死なないと約束してほしい」と明確に伝えることで、患者との信頼関係を維持し、安全確保と治療的関係構築を同時に達成できる。話題を変える・励ます・気分転換を促すといった対応は、患者の訴えを軽視したと受け取られ、信頼関係を損なう。
選択肢考察
-
× 1. 話題を変える。
自殺念慮を打ち明けた患者の話題を変えることは「聞きたくない」というメッセージと受け取られ、患者の孤立感を深め信頼関係を損なう。
-
× 2. 気分転換を促す。
うつ状態では気分転換自体が負担となり、意欲のなさを再認識させて自責感を強める可能性がある。まずは気持ちを受け止めることが先。
-
× 3. すぐに良くなると励ます。
安易な励ましは「自分の苦しみを理解されていない」と感じさせ、かえって絶望感を強める。うつ状態患者への励ましは禁忌とされる。
-
○ 4. 自殺しないことをAさんに約束してもらう。
自殺念慮の表出に対し、具体的な不自殺契約を結ぶことで安全を確保し、信頼関係の中で援助を継続する基盤を作る。
自殺念慮(suicidal ideation)のある患者への対応原則(TALK原則):T(Tell:心配を率直に伝える)、A(Ask:自殺について直接尋ねる)、L(Listen:傾聴する)、K(Keep safe:安全を確保する)。自殺について直接尋ねることで自殺行動が増えることはなく、むしろ抑制効果がある。ノー・サスサイド・コントラクト(不自殺契約)は「次に話すまでの間、自分を傷つけない」と約束を交わすもので、契約の有無自体より話し合いのプロセスが治療的に機能する。禁忌対応は「話題をそらす」「安易に励ます」「説得で変えようとする」「約束を強要する」など。うつ状態では「回復期」に自殺リスクが高まる点も重要で、行動エネルギーが戻り始める時期が要注意。
自殺念慮を表出した患者への看護対応を問う問題。患者の訴えを真剣に受け止め、安全確保のための不自殺契約を結ぶのが原則。
「状況設定問題」の関連記事
-
処方薬がいつしか「快感の道具」に…乱用と急性中毒はどう違う?
処方薬を陶酔目的で逸脱使用し社会生活に支障が出ている状態を、急性中毒・拘禁反応・乱用・フラッシュバックのどれ…
114回
-
入院でぴたりと薬を止めたら…48〜72時間に襲う離脱症候群の正体
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の長期大量服用者が急に断薬された際、48〜72時間に出現しやすい症状を問う問題。離脱症…
114回
-
ひとりで抱え込まないために—依存症回復を支えるセルフヘルプグループ
物質使用障害の回復期にある若年女性に勧める社会資源を問う問題。「1人暮らし+復学」という生活希望に合致し、依存…
114回
-
精神看護のセルフケア6項目で「いま何が一番大事?」を見抜く
Underwoodのセルフケア6領域に基づき、入院急性期の統合失調症患者で最も優先される観察項目を選ぶ。昼夜逆転を伴う…
114回
-
SSRIの飲み始めに襲う「吐き気」の正体—自己中断を防ぐ服薬指導
うつ病急性期の高齢患者と家族へのSSRI服薬指導の要点を問う問題。初期消化器症状の事前説明によって自己中断を防ぐ…
114回