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うつ回復期の日内変動と自殺リスク 観察の鍵を探る

看護師国家試験 第106回 午前 第110問 / 精神看護学 / 状況設定問題

国試問題にチャレンジ

106回 午前 第110問

Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後4週が経過した。昨日は、午前中ホールに1回出てきたが、すぐに病室に戻ってしまった。今朝、看護師がホールに出てきたAさんに「おはようございます」と声を掛けたところ、「おはよう」と答えただけで病室に戻ってしまった。夕方には他の患者とも会話をしたり、一緒にテレビを見たりするようになった。看護師が気分について尋ねると「まだ死にたい気持ちが残っている」と話した。 このときのAさんの状態のアセスメントとして正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 1.過活動である。
  2. 2.気分には日内変動がある。
  3. 3.自分に注目して欲しいと思っている。
  4. 4.行動の回復と感情の回復に差が生じている。
  5. 5.看護師に声を掛けられたことに怒りを感じている。

対話形式の解説

博士 博士

今回はAさんが入院後4週間経ち、行動面が変化してきた場面じゃ。正しいアセスメントを2つ選ぶ問題じゃよ。

アユム アユム

朝は病室に戻って、夕方は他患者と会話するって、どういうことなんでしょう?

博士 博士

これはうつ状態の典型的な「日内変動」じゃ。朝に症状が重く、夕方に軽くなるパターンじゃな。

アユム アユム

なぜ朝に重いんですか?

博士 博士

生体リズムとコルチゾール分泌の関係、早朝覚醒による不眠、「今日も一日がつらい」という予期不安など複合的じゃ。うつの診断基準にも「日内変動」が挙がっておる。

アユム アユム

「行動の回復と感情の回復に差がある」ってどういうことですか?

博士 博士

回復期には行動面が先に戻る。ホールに出る、他患者と話すといった行動ができるようになる。しかし内面の抑うつ感情や希死念慮はまだ残っておる状態じゃ。

アユム アユム

Aさんもまさにそうですね。交流はできるけど「まだ死にたい気持ちが残っている」と言ってる。

博士 博士

その通り。この「回復のギャップ」こそ自殺リスクが最も高まる時期じゃ。

アユム アユム

え、回復しているのに自殺リスクが高まるんですか?

博士 博士

重症うつでは行動エネルギーもなく自殺を実行する力すらない。回復期にエネルギーが戻り始めると、残っている希死念慮を実行に移せるようになる。だから看護師は最も警戒するのじゃ。

アユム アユム

いつ頃が要注意ですか?

博士 博士

薬物療法開始2〜3週間後、退院前後、回復期初期が特に危険じゃ。

アユム アユム

「過活動」という選択肢はどうですか?躁転の可能性もあるのでは?

博士 博士

よい視点じゃ。双極性障害では躁転にも注意が必要じゃ。しかしAさんの行動は「他患者と会話する」「テレビを見る」程度で、多弁・多動・浪費・睡眠時間減少といった躁症状はみられん。過活動とはいえんのじゃ。

アユム アユム

「自分に注目してほしい」っていう選択肢はどう判断しますか?

博士 博士

アピール的・演技的な行動や関心を引く言動があれば演技性が疑われるが、Aさんの様子にはそれはない。根拠のない選択肢じゃな。

アユム アユム

「声をかけられて怒りを感じている」はどうですか?

博士 博士

挨拶に「おはよう」と返答しておる。無反応でも拒絶でもない。怒りを示唆する情報はない。

アユム アユム

回復期の自殺リスクって、看護師はどう関わればいいんですか?

博士 博士

観察頻度を上げ、希死念慮の程度を直接尋ね、一人にしない、危険物の管理、医師・多職種との情報共有が大切じゃ。

アユム アユム

双極性障害の治療薬には何がありますか?

博士 博士

気分安定薬が柱じゃ。リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン、カルバマゼピンなど。うつ症状には抗うつ薬を併用することもあるが、躁転リスクに注意じゃ。

アユム アユム

アセスメントって、患者の言葉と行動を時間軸で整理して、典型パターンと照合する作業なんですね。

博士 博士

まさにその通り。精神看護では「観察→解釈→判断→介入」のサイクルを丁寧に回すのが核心じゃ。特に危険な回復期の見極めは命を救う看護の真髄じゃな。

POINT

うつ状態の典型症状には日内変動(朝に重く夕方軽減)と、回復期における行動面と感情面の回復のズレがあります。Aさんの「朝は病室に戻り夕方は他患者と交流」というパターンは日内変動を示し、「他者と交流できるが死にたい気持ちは残る」状態は行動と感情の回復ギャップを示しています。このギャップが生じる回復期は行動エネルギーが戻る一方で希死念慮が残存するため、自殺リスクが最も高まる危険な時期です。双極性障害では躁転の可能性もあるため、活動性増加を単純に回復と捉えず慎重に観察する必要があります。精神看護における時間軸での行動観察と、典型パターンとの照合は、安全確保と適切なケア計画の基盤となる重要なスキルです。

解答・解説

正解は 2 4 です

問題文:Aさん(38歳、男性、会社員)。両親と3人暮らし。25歳のころに双極性障害( bipolar disorder )と診断された。3か月前から気分が落ち込み夜も眠れず、食欲もなくなり仕事を休むことが多くなってきた。無力感を感じるようになり、休職して精神科病棟に任意入院した。入院後は1日中ベッドで横になって過ごし、他の患者との交流もみられない。看護師が話しかけても簡単な返事をするだけで無表情である。食事は病室で摂取しており、摂取量は少ない。 入院後4週が経過した。昨日は、午前中ホールに1回出てきたが、すぐに病室に戻ってしまった。今朝、看護師がホールに出てきたAさんに「おはようございます」と声を掛けたところ、「おはよう」と答えただけで病室に戻ってしまった。夕方には他の患者とも会話をしたり、一緒にテレビを見たりするようになった。看護師が気分について尋ねると「まだ死にたい気持ちが残っている」と話した。 このときのAさんの状態のアセスメントとして正しいのはどれか。2つ選べ。

解説:正解は 2 と 4 です。Aさんの様子を時間軸で整理すると、朝は病室に戻る一方、夕方になると他患者と会話しテレビを見るようになっており、気分・活動性に日内変動が認められる(選択肢2)。また他者と関わる行動は回復してきているにもかかわらず、「まだ死にたい気持ちが残っている」と内的な抑うつ感情は残存しており、行動面の回復と感情面の回復に差が生じている(選択肢4)。うつ状態では一般に午前中に症状が強く、夕方軽減する日内変動が典型的であり、回復期には行動面が先行して回復し感情が遅れて追いつくため、この時期こそ自殺リスクが高まる重要な局面である。

選択肢考察

  1. × 1.  過活動である。

    ホールに出る頻度が増えたのは回復の兆しであり、活動性の増加=過活動(躁状態)ではない。双極性障害では躁転も考慮するが、1日の行動範囲からは過活動とはいえない。

  2. 2.  気分には日内変動がある。

    朝は病室に戻り夕方は他患者と交流するパターンは、うつ状態に典型的な日内変動(朝重く夕方軽くなる)を示している。

  3. × 3.  自分に注目して欲しいと思っている。

    アピール的な言動や演技性の行動はみられず、該当する所見はない。

  4. 4.  行動の回復と感情の回復に差が生じている。

    他患者と交流できるようになった行動面の回復に対し、「まだ死にたい気持ち」という感情面の回復は追いついていない。回復期の典型像で自殺リスクが高まる時期。

  5. × 5.  看護師に声を掛けられたことに怒りを感じている。

    挨拶に「おはよう」と返答しており、怒りや拒絶の表現はみられない。

うつ状態の典型的な症状パターン:(1)日内変動:朝方に症状が重く、夕方に軽減する。早朝覚醒や朝の無力感が特徴。(2)回復期のリスク:回復期はエネルギーが戻り始める一方で、希死念慮・抑うつ気分は残存しやすく、自殺企図が実行されやすい危険期。薬物療法開始2〜3週間後や退院前後が要警戒。(3)行動の回復と感情の回復のズレ:行動面が先に改善し感情面が遅れる。これを「回復のギャップ」と呼び、看護観察の重要ポイント。(4)双極性障害では躁転の可能性もあるため、睡眠時間減少・多弁・多動・浪費などの躁症状出現にも注意する。本例のAさんはうつ状態の回復期に相当し、安全確保と支持的関わりが最優先となる。

うつ状態の回復期に特有の「日内変動」と「行動と感情の回復のズレ」を読み取れるかを問う問題。複数選択問題で観察力を試す良問。