摂食障害と家族療法 母娘の葛藤に寄り添う退院支援
看護師国家試験 第106回 午前 第114問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん(23歳、女性)は、大学を卒業後、インテリア会社に事務職として就職した。入社後に「ユニフォームが似合うようになりたい」とダイエットを始め、次第にやせが目立つようになった。母親がAさんに食事を作っても「太るのが怖い」と言って食べず、体重は2週間で5kg減少した。心配した母親とともに精神科外来を受診し、摂食障害( eating disorder )と診断され、開放病棟へ入院した。入院時、身長160cm、体重37kgであった。 入院後3か月が経過した。Aさんは体重が43kgまで増加し、主治医と相談して、退院の準備をすることになった。退院の話題が出ると、Aさんと母親は口論することが多くなった。父親は出張が多く、面会に来たのは一度のみであった。 退院に向けてAさんと家族に勧めることとして最も適切なのはどれか。
- 1.栄養指導
- 2.作業療法
- 3.家族療法
- 4.単身生活の開始
対話形式の解説
博士
Aさんは体重が37kgから43kgまで回復し、退院準備の段階じゃ。しかし退院の話になると母と口論、父親はほとんど面会に来ない…という状況じゃな。
アユム
体重は戻ったのに、退院に向けて家族関係の問題が見えてきたんですね。
博士
そう、ここが摂食障害の難しいところじゃ。身体症状が改善しても、家族力動の問題を扱わないと再発しやすいのじゃよ。
アユム
家族力動って何ですか?
博士
家族メンバー間の関係性や役割、コミュニケーションのパターンのことじゃ。摂食障害の家庭ではよく「母娘の過度な密着」「父親の不在」「完璧主義」などが指摘されるのじゃ。
アユム
まさにAさんの家族じゃないですか。お母さんとは口論、お父さんは出張ばかり。
博士
その通り。だから退院支援として最も大事なのは「家族療法」なのじゃ。家族を治療の場に巻き込んで、関係性そのものを調整する。
アユム
家族療法って具体的にどんなことをするんですか?
博士
有名なのがMaudsley Approach、別名FBT(Family-Based Treatment)じゃ。思春期の神経性やせ症に対して国際的にもエビデンスが高い。
アユム
どんな流れなんですか?
博士
3段階あってのう。第1段階は家族が食事を管理して体重を戻す、第2段階は本人に食事のコントロールを徐々に返す、第3段階は思春期の自立課題に取り組む、という流れじゃ。
アユム
家族が「食事を見張る」んじゃなくて、チームとして一緒に回復を目指すんですね。
博士
そうじゃ。批判的な関わりではなく、治療同盟としての家族を育てるのがポイントじゃ。
アユム
「栄養指導」はダメなんですか?体重管理は大事ですよね。
博士
栄養指導も必要じゃが、家族関係の緊張が残ったままでは家庭に帰ってから食事場面が戦場になってしまう。まずは関係改善が先じゃ。
アユム
「単身生活の開始」はどうですか?家族と離れれば楽になりそうですけど。
博士
退院直後の単身生活はリスクが高い。孤立して食行動のコントロールが崩れやすい。まずは家族療法で関係を整え、それから将来的に自立を考えるのが順序じゃ。
アユム
作業療法は?
博士
統合失調症や気分障害の社会復帰リハには有用じゃが、本症例の中心課題は家族関係じゃから優先度は低いのじゃ。
アユム
摂食障害って「食べる・食べない」の問題に見えて、実は家族全体の問題なんですね。
POINT
摂食障害、特に思春期・若年発症例では家族の関係性が病態と密接に結びつくことが多く、治療・退院支援の中で家族療法が第一選択の一つに位置づけられています。本症例では体重は回復したものの、退院話をめぐる母娘の口論や父親の関与不足が明らかで、家庭に戻ってからの再発リスクが懸念されます。そのため退院準備として勧めるべきは家族療法であり、栄養指導や作業療法は補助的、単身生活の開始はむしろ危険です。Maudsley Approach(FBT)は国際的にエビデンスのある家族療法で、体重回復から自立までを3段階で支援します。摂食障害の看護では、本人のみならず家族全体を視野に入れたアプローチが不可欠です。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:Aさん(23歳、女性)は、大学を卒業後、インテリア会社に事務職として就職した。入社後に「ユニフォームが似合うようになりたい」とダイエットを始め、次第にやせが目立つようになった。母親がAさんに食事を作っても「太るのが怖い」と言って食べず、体重は2週間で5kg減少した。心配した母親とともに精神科外来を受診し、摂食障害( eating disorder )と診断され、開放病棟へ入院した。入院時、身長160cm、体重37kgであった。 入院後3か月が経過した。Aさんは体重が43kgまで増加し、主治医と相談して、退院の準備をすることになった。退院の話題が出ると、Aさんと母親は口論することが多くなった。父親は出張が多く、面会に来たのは一度のみであった。 退院に向けてAさんと家族に勧めることとして最も適切なのはどれか。
解説:正解は 3 です。摂食障害は家族システムの問題と密接に関連することが多く、本症例では退院の話題で母娘の口論が頻発し、父親は面会にほとんど来ないという家族機能の偏りが浮かび上がっている。家族療法は、個人の病態を家族全体の関係性の中で捉え直し、コミュニケーションパターンを調整する治療法で、特に若年発症の摂食障害では第一選択の心理療法として確立されている(Maudsley法など)。家庭環境の緊張が続けば退院後の再発リスクが高まるため、退院準備として家族療法を勧めるのが最適。
選択肢考察
-
× 1. 栄養指導
栄養指導自体は摂食障害の治療で重要だが、現在の最大の課題は家族関係の葛藤であり、優先度は家族療法より低い。家族間の緊張を解消しないまま栄養指導のみを行っても退院後の再発リスクは残る。
-
× 2. 作業療法
作業療法は気分障害や統合失調症のリハビリテーションでは有用だが、本症例における最大の課題は家族関係であり、退院支援として最優先すべきではない。
-
○ 3. 家族療法
摂食障害、特に思春期・若年発症では家族療法が有効性の高い治療とされ、国際ガイドラインでも推奨されている。母娘の口論、父親の関与不足という家族力動を扱うことで、退院後の再発予防と家族機能の改善が期待できる。
-
× 4. 単身生活の開始
退院直後の単身生活は孤立と食行動のコントロール困難を招きやすく、体重維持が困難になる。家族関係に課題があっても、まずは家族療法で関係改善を図るのが先で、単身生活を性急に勧めるのは不適切。
摂食障害の家族療法として有名なのがMaudsley Approach(モーズレイ法、FBT)で、思春期の神経性やせ症において高いエビデンスを持つ。第1段階:体重回復のため家族が食事を管理、第2段階:本人に食事のコントロールを徐々に戻す、第3段階:思春期の自立・自己同一性の課題に取り組む、という流れ。また、摂食障害の背景には「自立と依存」「完璧主義」「母娘の密着」などの家族力動が関与することが多いとされる。
摂食障害の退院支援における家族アプローチの重要性を問う問題。家族関係の課題が明示された事例では家族療法を選ぶ。
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