炭酸リチウム中毒を見抜く薬物血中濃度検査
看護師国家試験 第108回 午後 第113問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(40歳、男性、会社員)は、うつ病(depression)と診断されていた。最近、仕事がうまくいかず、大きなミスを起こし、会社に損失を与えたことから自分を責め不眠となり、体重が減少した。ある朝、リビングの床で寝ているAさんを妻が発見し、大きな声で呼びかけたところ、Aさんは1度目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。ごみ箱に、からになった薬の袋が大量に捨ててあり、机には遺書があった。救急搬送後、意識が清明となり、身体的問題がないため精神科病院に入院となった。 入院後1か月、Aさんのうつ症状は改善を認めたが、同室患者とトラブルが続き、不眠や多弁傾向となった。また焦燥感が強く落ち着いて食事ができなくなった。そのため双極性障害(bipolar disorder)と診断され、主治医から炭酸リチウムの内服の指示が出た。Aさんは炭酸リチウムを服用して1週後、手の震え、嘔気が出現した。 Aさんの手の震え、嘔気の原因を判断するための検査で最も適切なのはどれか。
- 1.尿検査
- 2.髄液検査
- 3.頭部MRI検査
- 4.薬物血中濃度検査
対話形式の解説
博士
さて、今日は双極性障害と診断されて炭酸リチウムを始めたAさんの事例じゃ。服用1週後に手の震えと嘔気が出たね。
サクラ
副作用でしょうか?まず何の検査をすればいいんですか?
博士
鋭い疑問じゃ。答えは4番の薬物血中濃度検査。炭酸リチウムは治療域と中毒域がとても近い薬なんじゃよ。
サクラ
治療域ってどれくらいですか?
博士
一般に0.4〜1.0mEq/Lじゃ。1.5mEq/Lを超えると中毒域、2.0mEq/L以上は重症で血液透析が必要になることもあるんじゃ。
サクラ
そんなに狭いんですね…だからTDMが必須なんですね。
博士
その通り。投与開始時や増量時は週1回、安定したら2〜3か月ごとに測定するんじゃ。
サクラ
手の震えや嘔気はリチウム中毒の初期症状なんですか?
博士
そうじゃ。ほかにも下痢、傾眠、めまい、進行すると意識障害や痙攣まで起こる。だから早期に気づいて濃度を測ることが命を守るんじゃよ。
サクラ
1番の尿検査はどうですか?
博士
重度中毒で腎障害が進んだ時の評価には使うが、振戦や嘔気の原因特定には直接つながらんのじゃ。
サクラ
2番の髄液検査は?
博士
髄膜炎などを疑うときに行う侵襲的な検査じゃ。発熱や項部硬直もない本事例では適応にならん。
サクラ
3番の頭部MRIは?
博士
脳器質疾患を調べる検査じゃが、服薬開始1週後に症状が出たという時間経過から薬剤性がまず疑われる。MRIよりも採血が優先じゃよ。
サクラ
リチウム中毒が起こりやすい条件はありますか?
博士
脱水、発熱、夏場の発汗、塩分制限、そしてNSAIDsや利尿薬、ACE阻害薬との併用で血中濃度が上昇しやすい。十分な飲水指導が看護のポイントじゃ。
サクラ
患者さんにも副作用の自覚症状を伝えておくといいですね。
博士
そう、振戦・嘔気・下痢・眠気が出たらすぐ受診、と教育することが再発防止につながる。副作用を知って防ぐのが服薬支援じゃよ。
POINT
炭酸リチウムは治療域と中毒域が近接する薬剤で、治療薬物モニタリング(TDM)が必須です。手指振戦、嘔気、下痢、傾眠などはリチウム中毒の初期症状であり、症状出現時はまず血清リチウム濃度を測定します。脱水や併用薬により中毒が誘発されやすいため、飲水指導と定期的な血中濃度測定が看護の要となります。重症例では血液透析が必要になることもあり、早期発見が命を守るカギです。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(40歳、男性、会社員)は、うつ病(depression)と診断されていた。最近、仕事がうまくいかず、大きなミスを起こし、会社に損失を与えたことから自分を責め不眠となり、体重が減少した。ある朝、リビングの床で寝ているAさんを妻が発見し、大きな声で呼びかけたところ、Aさんは1度目を開けたが、すぐ目を閉じてしまった。ごみ箱に、からになった薬の袋が大量に捨ててあり、机には遺書があった。救急搬送後、意識が清明となり、身体的問題がないため精神科病院に入院となった。 入院後1か月、Aさんのうつ症状は改善を認めたが、同室患者とトラブルが続き、不眠や多弁傾向となった。また焦燥感が強く落ち着いて食事ができなくなった。そのため双極性障害(bipolar disorder)と診断され、主治医から炭酸リチウムの内服の指示が出た。Aさんは炭酸リチウムを服用して1週後、手の震え、嘔気が出現した。 Aさんの手の震え、嘔気の原因を判断するための検査で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。炭酸リチウムは治療域(0.4〜1.0mEq/L程度)と中毒域(1.5mEq/L以上)が近い薬剤で、治療薬物モニタリング(TDM)が必須です。手指振戦、嘔気、下痢、傾眠などはリチウム中毒の初期症状であり、まず血中濃度を測定して中毒の有無を確認することが優先されます。
選択肢考察
-
× 1. 尿検査
重度のリチウム中毒で腎障害が進行した際に参考にはなりますが、振戦・嘔気の原因判定には直接寄与しません。
-
× 2. 髄液検査
髄膜炎など中枢神経感染症を疑う場合に行う検査で、発熱や項部硬直を伴わない本事例では適応がありません。
-
× 3. 頭部MRI検査
脳器質疾患の鑑別に用いますが、服薬開始1週後の症状出現という経過から薬剤性が強く疑われ、まず血中濃度測定を優先します。
-
○ 4. 薬物血中濃度検査
炭酸リチウムは安全域が狭いためTDMが標準的で、振戦や嘔気などの中毒症状が出現した際はまず血清リチウム濃度を測定します。
リチウム中毒は脱水、発熱、塩分制限、NSAIDs・利尿薬・ACE阻害薬との併用で誘発されやすいです。治療域は一般に0.4〜1.0mEq/Lで、1.5mEq/Lを超えると中毒域、2.0mEq/L以上は重症中毒で血液透析の適応となります。初期症状(振戦・嘔気・下痢・傾眠)の段階で気づくことが重要で、十分な飲水指導が欠かせません。
炭酸リチウム内服中の副作用出現時にTDM(薬物血中濃度測定)を最優先する判断力を問う問題です。
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