転移現象の理解
看護師国家試験 第110回 午後 第110問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
Aさん( 32歳、男性)は、仕事上のストレスを抱えていた際に知人から誘われ、覚せい剤を常用するようになり逮捕された。保釈後、薬物依存症の治療を受けることができる精神科病院に入院し、治療プログラムに参加することになった。 入院2週後、Aさんは病棟生活のルールを守ることができず、それを注意した看護師に対して攻撃的になることがあった。別の看護師がAさんに理由を尋ねると「指図するような話し方をされると、暴力的だった父親を思い出し、冷静でいられなくなる」と話した。 このときAさんに起こっているのはどれか。
- 1.転移
- 2.逆転移
- 3.躁的防衛
- 4.反動形成
対話形式の解説
博士
入院2週後のAさん。看護師に注意されると攻撃的になってしまうぞい。
アユム
本人は「指図する話し方をされると暴力的だった父親を思い出す」と言っていますね。
博士
まさに精神看護のキーワードじゃ。これは何という現象?
アユム
選択肢1の「転移」だと思います。
博士
正解じゃ。では転移の定義を説明してくれ。
アユム
過去に両親など重要な他者に向けていた感情を、現在関わる治療者などに無意識に向けてしまう現象です。
博士
完璧じゃ。Aさんの場合は父親への抑圧された怒りを、指図する看護師に向けているわけじゃな。
アユム
怒りや敵意を向けるのは陰性転移ですね。逆に信頼・好意を向けるのは陽性転移。
博士
よく覚えているのう。国試では両方覚えておくんじゃぞ。
アユム
選択肢2の逆転移は方向が逆ですね。
博士
そう、逆転移は治療者が患者に対して抱く個人的感情じゃ。「この患者を見ると自分の母親を思い出して特別扱いしてしまう」のような現象じゃな。
アユム
スーパービジョンで扱うべき課題ですね。
博士
その通り。3の躁的防衛は?
アユム
喪失や抑うつから逃れるために過度に陽気にふるまったり万能感を示すことです。今回の攻撃性とは違います。
博士
4の反動形成は?
アユム
受け入れがたい感情と正反対の行動を取ることですね。憎い相手にわざと親切にする、など。今回とは逆方向です。
博士
見事じゃ。では転移に気づいた看護師はどう対応する?
アユム
非難せず、今の怒りが本当は誰に向けられているのかを一緒に探索することでしょうか。
博士
素晴らしい。転移は治療的素材として活用できる貴重な現象じゃ。Aさんが父親との関係性に向き合う糸口にもなるんじゃぞ。
アユム
感情の背景を理解すると、患者さんの行動が見え方が変わりますね。
POINT
転移は過去の重要他者への感情を現在の治療者に向ける現象で、Aさんの看護師への攻撃性は父親への抑圧された怒りの転移(陰性転移)です。逆転移は治療者側で起こる現象、躁的防衛は抑うつから逃れる防衛機制、反動形成は感情と逆の行動を取る防衛機制で、いずれも本問の状況とは異なります。転移を理解し非難せず探索する姿勢が治療的関係構築の鍵となります。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:Aさん( 32歳、男性)は、仕事上のストレスを抱えていた際に知人から誘われ、覚せい剤を常用するようになり逮捕された。保釈後、薬物依存症の治療を受けることができる精神科病院に入院し、治療プログラムに参加することになった。 入院2週後、Aさんは病棟生活のルールを守ることができず、それを注意した看護師に対して攻撃的になることがあった。別の看護師がAさんに理由を尋ねると「指図するような話し方をされると、暴力的だった父親を思い出し、冷静でいられなくなる」と話した。 このときAさんに起こっているのはどれか。
解説:正解は1です。転移とは、患者が過去に重要な他者(多くは両親など)に対して抱いていた感情や葛藤を、治療者など現在関わる人物に無意識のうちに向けてしまう現象です。Aさんが「指図する看護師」に「暴力的な父親」を重ね、父親への抑圧された怒りを看護師に向けて攻撃的になっているのはまさに転移(特に陰性転移)の典型です。
選択肢考察
-
○ 1. 転移
過去の重要他者(父親)への感情を、類似した存在(指図する看護師)に向けてしまう現象であり、Aさんの反応はまさに転移の典型例です。
-
× 2. 逆転移
逆転移は治療者側が患者に対して自分の個人的感情を無意識に向けてしまう現象です。Aさん(患者)側で起きている事象とは方向が逆になります。
-
× 3. 躁的防衛
躁的防衛は喪失や抑うつ感情から自己を守るために、過度に陽気にふるまったり万能感を示す防衛機制です。Aさんの攻撃性とは機序が異なります。
-
× 4. 反動形成
反動形成は受け入れがたい感情と正反対の態度をとる防衛機制です。攻撃性を抑えて過剰に優しくなるようなケースが該当し、Aさんの状況には当てはまりません。
転移には陽性転移(信頼・好意・尊敬)と陰性転移(敵意・不信・攻撃性)があり、精神分析的看護では重要な治療的素材とされます。転移に気づいたら、非難せず「今の怒りは誰に向けられているのか」を一緒に探索するのが基本です。一方の逆転移は治療者側の課題として、スーパービジョンや自己覚知で扱います。両者の区別は国家試験頻出です。
転移・逆転移・防衛機制(躁的防衛・反動形成)の定義を正確に区別できるかを問う問題です。
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