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週3回通院は無理…在宅でできる「腹膜透析」のしくみと国試ポイント

看護師国家試験 第115午前98(状況設定問題)

国試問題にチャレンジ

115午前98

状況設定

Aさん(60歳、女性、会社員)は15年前に糖尿病と診断され血糖降下薬を服用していた。その後、微量のアルブミン尿が出現し、腎機能は徐々に悪化したため、10年前からインスリン療法が開始された。Aさんは外来受診時に労作時の息切れを訴えており、肺野の水泡音と下肢の浮腫が認められ、精査加療目的で入院した。入院時は、身長155 cm、体重65 kgで1か月前から5 kg増加している。体温36.3℃、呼吸数28/分、脈拍82/分、血圧160/82 mmHgであった。血液検査データは、Hb 8.5 g/dL、HbA1c 8.5%、アルブミン3.1 g/dL、クレアチニン3.5 mg/dL、K 4.0 mEq/Lで、推算糸球体濾過量(eGFR)は15 mL/分/1.73㎡であった。

医師はAさんに透析導入の可能性について説明した。Aさんは「週に3回も病院に来るのは無理です。他の患者さんから家でできる腹膜透析もあるって聞いたけど、どういうものかしら」と看護師に尋ねた。 Aさんへの腹膜透析に関する説明内容で適切なのはどれか。

  1. 1.入浴はできない。
  2. 2.腸炎の危険性がある。
  3. 3.腹腔にカテーテルを挿入する。
  4. 4.心血管系への負担が血液透析より大きい。

対話形式の解説

博士博士
今回はAさんの事例から、腹膜透析(PD)を学ぶぞ。Aさんは60歳の会社員、糖尿病性腎症でeGFR 15、もう透析導入が視野に入っておる状態じゃ。
サクラサクラ
eGFR 15って、ステージで言うとG5に近いですよね。仕事を続けている方にとって週3回の血液透析はかなり負担だと思います。
博士博士
その通りじゃ。だからAさんは「家でできる腹膜透析」に興味を持って看護師に質問してきた。さて、腹膜透析とはどんな治療か、説明できるかな?
サクラサクラ
えーと…たしか、お腹の中に透析液を入れて、腹膜を使って老廃物を取り除く方法、ですよね?
博士博士
うむ、合格点じゃ。もっと具体的に言うと、腹壁から腹腔内にシリコン製のカテーテル(テンコフカテーテルが代表)を外科的に留置して、そこから透析液を注入・貯留・排液する。腹膜という生体の半透膜越しに、拡散で老廃物を、浸透圧で水分を除去するのじゃ。
サクラサクラ
じゃあ選択肢3「腹腔にカテーテルを挿入する」はそのまま正解ですね。1の「入浴はできない」はどうなんですか?お腹に管が入っていたら確かに気になりますが…。
博士博士
いい疑問じゃ。出口部が治癒した慢性期には、専用の保護パウチで出口部を覆ってシャワーや入浴ができる。完全禁止ではないので「入浴はできない」は不適切な説明じゃ。
サクラサクラ
2の「腸炎の危険性がある」は、PDの合併症としてよく聞く「腹膜炎」とは違うものなんですか?
博士博士
違うぞ。腸炎は腸管粘膜の炎症で、PDの代表合併症ではない。PDで一番怖いのはカテーテル接続部からの細菌侵入による腹膜炎。排液が白濁したり腹痛・発熱が出たらすぐ受診が原則じゃ。
サクラサクラ
なるほど。じゃあ4の「心血管系への負担が血液透析より大きい」はどうですか?お腹に透析液が入っていると心臓に負担がかかりそうな気もしますが…。
博士博士
これは逆じゃ。PDは24時間かけて緩徐に除水・除去するから、HDのように短時間で大量に水を引いて血圧が乱高下することがない。循環動態が安定しやすく、心機能が低下した人や高齢者にも導入しやすい。
サクラサクラ
Aさんも糖尿病が長くて、いずれ心血管合併症のリスクもありますもんね。PDのほうが体には優しいんですね。
博士博士
ただし注意点もあるぞ。透析液にはブドウ糖が浸透圧物質として含まれておるから、糖尿病のAさんでは高血糖や体重増加に注意が必要じゃ。それから長期使用(5〜8年が目安)で被嚢性腹膜硬化症(EPS)という重大合併症のリスクもある。
サクラサクラ
在宅でできるから自由度は高いけれど、清潔操作・出口部ケア・血糖管理…自己管理がかなり重要ですね。看護師の指導も大切になりそうです。
博士博士
その通りじゃ。Aさんのように仕事を続けたい人にとってPDは大きな選択肢じゃが、本人と家族がセルフケアを担えるか、緊急時の連絡体制があるか、住環境(清潔な交換スペース)が整うかを多職種で評価する必要があるのじゃ。
サクラサクラ
治療法を「説明する」というのは、単にしくみを伝えるだけでなく、その人の生活全体を見据えて選択を支えることなんですね。

POINT

腹膜透析の基本構造(腹腔カテーテル留置+腹膜を半透膜として利用)と、血液透析との比較における特徴(在宅可能・循環動態安定・主合併症は腹膜炎)を、患者の生活背景に即して説明できるかが問われている。

解答・解説

正解は3です

問題文:医師はAさんに透析導入の可能性について説明した。Aさんは「週に3回も病院に来るのは無理です。他の患者さんから家でできる腹膜透析もあるって聞いたけど、どういうものかしら」と看護師に尋ねた。 Aさんへの腹膜透析に関する説明内容で適切なのはどれか。

解説:正解は 3 です。腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)は、腹腔内に専用のカテーテル(テンコフカテーテルなど)を外科的に留置し、そこから透析液を腹腔内に注入・貯留・排液することで、腹膜を半透膜として利用し、血液中の老廃物・余分な水分・電解質を除去する腎代替療法である。Aさんは糖尿病性腎症によるeGFR 15 mL/分/1.73㎡の末期腎不全(CKDステージ G5)に近い状態で、会社員として働きながら「週3回の通院は無理」という生活背景があり、在宅で実施できるPDは選択肢となり得る。代表的な方式に、1日に4回ほど手動で透析液を交換する連続携行式腹膜透析(CAPD)と、夜間に自動腹膜透析装置で行う自動腹膜透析(APD)がある。在宅・職場で実施でき、循環動態が安定し残腎機能を保ちやすい一方、出口部・トンネル感染や腹膜炎、被嚢性腹膜硬化症(EPS)などの合併症リスクがあるため、清潔操作と自己管理の習得が不可欠である。

選択肢考察

  1. ×1.  入浴はできない。

    PDカテーテルの出口部が完全に治癒している慢性期では、出口部を専用の保護パウチで覆ったり、シャワー浴を行うなど条件を満たせば入浴は可能である。「一切できない」と説明するのは誤りで、清潔保持の方法とともに正しい入浴方法を指導するのが適切。

  2. ×2.  腸炎の危険性がある。

    PDで最も代表的かつ注意すべき感染性合併症は腹膜炎であり、出口部感染・トンネル感染がそれに続く。透析液の出し入れの際にカテーテル接続部から細菌が侵入することで腹膜炎が生じるのであって、消化管粘膜の炎症である腸炎とは病態が異なるため不適切。

  3. 3.  腹腔にカテーテルを挿入する。

    PDでは腹壁を介して腹腔内にシリコン製のカテーテル(テンコフカテーテルなど)を外科的に留置し、ここから透析液を出し入れする。腹膜を半透膜として利用し、拡散と浸透圧(高濃度ブドウ糖などの浸透圧物質)により溶質除去と除水を行う仕組みであり、Aさんへの説明として適切。

  4. ×4.  心血管系への負担が血液透析より大きい。

    PDは24時間連続的に緩徐な溶質除去・除水が行われるため、短時間で大量の体液を除去する血液透析(HD)に比べて急激な体液量・血圧変動が少なく、心血管系への負担はむしろ小さい。心機能の低下した症例や高齢者でも導入しやすい点が利点。

腹膜透析の方式にはCAPD(連続携行式腹膜透析:1日4回程度バッグ交換を手動で行う)とAPD(自動腹膜透析:就寝中に機械が自動で透析液を交換する)がある。長所は通院が週1回程度で済むこと、残腎機能が保たれやすいこと、食事制限がHDより緩やかなこと、循環動態が安定すること。短所は腹膜炎・出口部感染のリスク、透析液中のブドウ糖による高血糖や肥満、長期使用による被嚢性腹膜硬化症(EPS)のリスクで、一般に5〜8年程度を目安にHDや腎移植への移行が検討される。看護師は清潔なバッグ交換手技、出口部ケア、体重・血圧・除水量の自己モニタリング、排液混濁時の早期受診といったセルフケアを患者・家族とともに確立していく。Aさんは糖尿病があるため、透析液からのブドウ糖吸収を考慮した血糖コントロールも重要である。

腹膜透析の基本構造(腹腔カテーテル留置+腹膜を半透膜として利用)と、血液透析との比較における特徴(在宅可能・循環動態安定・主合併症は腹膜炎)を、患者の生活背景に即して説明できるかが問われている。

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。