地震災害の病院看護
看護の統合と実践 / 災害看護
解説
地震は突然発生し、病院機能そのものを揺るがす災害です。病棟で勤務中に大規模地震に遭遇した場合、看護師には限られた時間と人員のなかで、患者の命を守りつつ、外部から搬送されてくる多数の傷病者にも対応する役割が求められます。ここでは、発災直後の行動原則、災害時のトリアージ、倒れている被災者を発見したときの一次救命処置、そして発災後の心理的反応への対応という観点から、地震災害における病院看護の基本を整理します。
発災直後に病棟看護師がとる行動
大きな揺れを感じた直後の病棟では、転倒・転落、棚やモニターなどの落下、点滴ルートの抜去、酸素配管や医療機器の停止など、さまざまな二次被害が同時に起こり得ます。そのため、発災直後の病棟看護師にとって最も優先される行動は、自分自身と患者の安全確認です。看護師自身が負傷しては患者を守れないため、まず身の安全を確保し、続いて病棟内の患者一人ひとりの状態を観察し、外傷の有無、医療機器の作動状況、ルート類のトラブルを確認します。
病院の災害対応では、CSCATTTという枠組みが用いられます。これは「Command(指揮命令)・Safety(安全)・Communication(情報伝達)・Assessment(評価)・Triage(トリアージ)・Treatment(治療)・Transport(搬送)」の頭文字をとったもので、発災直後は指揮命令系統と安全確保が最優先となります。安全確認の対象は、Self(自分)・Scene(現場)・Survivor(患者)の順とされており、看護師個人レベルでも自身、周囲、患者の順に確認する流れが基本です。避難誘導や設備点検は、病棟全体の状況が把握できた次の段階で行います。
災害時のトリアージ
多数の傷病者が同時に搬送される災害現場では、限られた医療資源を最も効果的に配分するためにトリアージが行われます。一次トリアージとして広く用いられるのがSTART法(Simple Triage And Rapid Treatment)で、1人あたりおよそ30秒で評価します。評価項目は、歩行の可否、自発呼吸の有無、呼吸数、循環(毛細血管再充満時間または橈骨動脈の触知)、意識(従命反応)の順で進めます。
結果はトリアージタグを用いて、赤(緊急治療群)・黄(待機的治療群)・緑(軽症群)・黒(死亡群または救命困難群)の4区分に分類します。一次トリアージでは迅速性が最優先されるため、血圧測定のように時間のかかる項目は含まれません。一方、二次トリアージのPAT法では、生理学的・解剖学的評価に加え受傷機転や既往歴も考慮し、血圧やSpO2などの詳細評価を行います。一次は迅速性、二次は精度を重視するという階層構造を押さえておきましょう。
倒れている被災者への初期対応
トリアージを待っている被災者が床に倒れているのを発見した場合でも、対応の流れは通常の一次救命処置(BLS)と変わりません。手順は、周囲の安全確認、反応(意識)の確認、応援要請とAED依頼、呼吸の確認、胸骨圧迫、AED装着の順となります。災害現場であっても、まず呼びかけて反応の有無を確認しなければ、その後の応援要請や胸骨圧迫を行うかどうかの判断ができません。
JRC蘇生ガイドラインに基づく医療従事者のBLSアルゴリズムでは、反応確認の後に応援要請とAED依頼を同時に行い、10秒以内に呼吸と頸動脈の触知を確認します。トリアージ担当の看護師は、目の前の処置に過度に時間を割くと他の傷病者の評価が滞るため、応援を呼び役割を交代しながら次の評価に戻ることも重要です。
腹部外傷による出血性ショックへの初期対応
地震災害では、家具の下敷きや落下物による腹部の鈍的外傷で、肝臓・脾臓・腸間膜などの実質臓器が損傷し、腹腔内出血から出血性ショックに陥る被災者が少なくありません。顔面蒼白、冷汗、頻脈、血圧低下、意識レベルの低下などのショック徴候を認めた場合は、循環血液量の急速な補充を目指して輸液・輸血を行う必要があります。そのため、腹部外傷による出血性ショックの初期対応では、静脈路(ルート)の確保が最優先となります。
太い留置針を用いて2本以上の末梢静脈路を確保し、細胞外液(乳酸リンゲル液など)の急速輸液を開始しながら、並行して採血、輸血の準備、医師への報告、根本止血のための手術準備を進めます。静脈路を確保することで、薬剤投与の経路も同時に確保でき、循環動態が悪化したときに迅速な対応が可能となります。気道確保や酸素投与も並行して行いますが、出血性ショックでは循環の維持が予後を左右するため、輸液ルートの確保を急ぐことが重要です。
被災者の心理的反応への看護対応
大地震を生き延びた人のなかには、家族や知人を亡くした自分が生き残ってしまったことに対して強い罪悪感を抱く場合があります。これを**サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)**といい、「自分だけ助かって申し訳ない」「あのとき○○できていれば」といった言葉として表現されます。これは大規模災害後にみられる正常な心理反応の一つであり、被災者特有の異常な感情ではありません。
看護師の対応としては、被災者の語りを否定したり、「気にしないで」「考えすぎ」と感情を打ち消したりするのではなく、感情を正常化し受容する声かけが適切です。具体的には「そう感じるのは自然なことです」「同じような体験をされた多くの方が同じ思いを抱えています」と伝え、感情を表出してよい場であることを保証します。また、無理に前向きな発言を促したり、原因を追及したりすることは避け、被災者のペースに合わせて寄り添う姿勢が求められます。
まとめ
地震災害における病院看護の基本は、自分と患者の安全確保を最優先とし、CSCATTTの枠組みに沿って段階的に対応することです。多数傷病者発生時にはSTART法による一次トリアージで迅速に重症度を判定し、倒れている被災者を発見した際には反応確認から始まるBLSの手順を確実に行います。腹部外傷による出血性ショックに対しては、静脈路確保を最優先として急速輸液を開始し、循環の維持に努めます。さらに、被災者が示すサバイバーズ・ギルトのような心理反応に対しては、感情を正常化し受容する声かけで支援することが重要です。発災直後の混乱の中でも、優先順位を整理した行動が患者の命を守る鍵となります。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
地震災害発生直後、病棟看護師が最も優先する行動は、自分自身との安全確認である。
- 2.
病院の災害対応で用いられる枠組みCSCATTTのうち、Sは(Safety)を意味する。
- 3.
災害時の一次トリアージで広く用いられる方法を法という。
- 4.
START法では、歩行可否、自発呼吸、呼吸数、循環、の順に評価する。
- 5.
トリアージタグの色のうち、緊急治療群を示す色はである。
- 6.
トリアージタグの色のうち、死亡群または救命困難群を示す色はである。
- 7.
一次トリアージでは迅速性が重視されるため、測定に時間のかかるは評価項目に含まれない。
- 8.
倒れている人を発見したとき、周囲の安全確認の次に行う一次救命処置の手順は(意識)の確認である。
- 9.
反応がない場合は、応援要請との依頼を行う。
- 10.
腹部外傷による出血性ショックの初期対応として最優先で行うべき処置は(ルート)の確保である。
- 11.
大地震を生き延びた被災者が「自分だけ助かって申し訳ない」と感じる罪悪感を(生存者の罪悪感)という。
- 12.
サバイバーズ・ギルトを訴える被災者への看護対応として、感情を否定せず正常な反応としてする声かけが適切である。
