甲状腺機能亢進症の病態と治療
成人看護学 / 内分泌・代謝
解説
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が亢進する病態のことをいいます。今回は甲状腺機能亢進症、特に代表疾患であるバセドウ病の病態と治療、看護について解説します。
甲状腺ホルモンのはたらき
甲状腺からは、**T3(トリヨードチロニン)とT4(チロキシン)**という2種類のホルモンが分泌されます。これらは全身の細胞に作用し、基礎代謝を高め、熱産生を促進し、交感神経の活動を亢進させる役割を担っています。分泌は階層的に調節されており、視床下部からTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、下垂体前葉からTSH(甲状腺刺激ホルモン)が放出され、甲状腺がT3・T4を産生します。血中のT3・T4が増加すると、視床下部と下垂体にネガティブフィードバックが働き、TRHやTSHの分泌が抑制される仕組みです。
バセドウ病の病態
甲状腺機能亢進症の代表疾患はバセドウ病です。バセドウ病は自己免疫疾患であり、**TSH受容体抗体(TRAb)**が甲状腺のTSH受容体に結合してこれを持続的に刺激するため、TSH非依存的に甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。20〜40歳代の女性に好発します。
症状と検査所見
代表的な徴候として、甲状腺腫、頻脈、眼球突出からなるメルゼブルクの三徴が知られています。そのほかにも、動悸、発汗過多、暑がり、体重減少、下痢傾向、手指振戦、イライラ、不眠など、代謝亢進と交感神経亢進を反映した多彩な症状がみられます。
検査所見では、甲状腺ホルモンが過剰となるためネガティブフィードバックによりTSHは低下し、FT3・FT4は上昇します。TRAbが陽性であればバセドウ病と診断されます。
治療の三本柱
治療には、抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術の3つの方法があり、年齢や重症度、妊娠の有無などにより選択されます。
第一選択となるのは抗甲状腺薬で、チアマゾール(メルカゾール、MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)があります。通常はチアマゾールが用いられますが、催奇形性の懸念から妊娠初期はPTUを選択します。
放射性ヨウ素内用療法は、I-131のカプセルを内服し、甲状腺細胞が選択的にヨウ素を取り込む性質を利用してβ線で甲状腺組織を破壊する治療です。妊娠中・授乳中は禁忌であり、治療後は6か月から1年程度の避妊が必要です。
手術では甲状腺亜全摘術が行われます。
抗甲状腺薬の副作用と患者教育
抗甲状腺薬で最も注意すべき副作用は無顆粒球症です。顆粒球が著しく減少することで重篤な感染症を起こすため、38℃以上の発熱や強い咽頭痛が出現した場合は、ただちに服薬を中止して受診するよう患者に指導します。そのほか、肝機能障害、皮疹、関節痛が出現することがあり、PTUではANCA関連血管炎も報告されています。治療開始後3か月は2週ごとに血液検査を行い、副作用と効果を確認します。
放射性ヨウ素内用療法の看護とヨード制限
治療効果を高めるため、治療前1週間程度はヨード制限食とし、昆布・ひじき・わかめなどの海藻類の摂取を控えるよう指導します。治療後数日間は唾液・汗・尿・便などの排泄物に放射性物質が含まれるため、トイレ使用後は二度流しを行い、食器は個別に使用し、家族との密接な接触を避けるよう説明します。晩期合併症として甲状腺機能低下症が高頻度に出現するため、退院後もTSH・FT4を定期的に測定してフォローアップすることが重要です。
甲状腺クリーゼ
甲状腺クリーゼは、感染、手術侵襲、ヨード制限の急な解除などを誘因として発症する、生命を脅かす緊急病態です。高熱、著明な頻脈、心不全、意識障害、脱水を呈し、致死率は10〜30%に及びます。早期発見と集中治療が救命の鍵となります。
甲状腺機能低下症との対比
甲状腺機能低下症では、亢進症とは逆に代謝が低下するため、徐脈、便秘、皮膚乾燥、寒がり、体重増加、浮腫、無気力などが出現します。症状を対比して整理しておくと理解が深まります。
まとめ
バセドウ病はTRAbが甲状腺を刺激して発症する自己免疫疾患で、メルゼブルクの三徴が特徴的です。治療は抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術の3本柱であり、無顆粒球症や甲状腺クリーゼなどの重大な合併症への対応を理解しておくことが看護師に求められます。
確認問題(穴埋め)
空欄をタップすると答えが表示されます。
- 1.
バセドウ病の病態の本体である自己抗体はである。
- 2.
バセドウ病に特徴的な甲状腺腫・頻脈・眼球突出の三徴をという。
- 3.
甲状腺機能亢進症ではネガティブフィードバックによりTSHはし、FT3・FT4は上昇する。
- 4.
抗甲状腺薬で最も重大な副作用であり、発熱と咽頭痛を契機に発見されるのはである。
- 5.
妊娠初期に選択される抗甲状腺薬はである。
- 6.
放射性ヨウ素内用療法に用いられる放射性同位元素はである。
- 7.
放射性ヨウ素内用療法の晩期合併症として高頻度に出現するのはである。
- 8.
感染や手術を誘因として高熱・頻脈・意識障害をきたす致死的な病態をという。
- 9.
ヨード制限食では昆布・ひじき・わかめなどのの摂取を控える。
