81歳・急性胆嚢炎のAさん ― 病室環境は『過不足なく』
看護師国家試験 第109回 午前 第97問 / 老年看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 81 歳、男性)は、妻( 73 歳)と 2 人暮らし。自宅でのADLは自立し、認知機能に障害はない。 Aさんは食欲不振と腹部不快感、微熱を主訴に受診したところ、急性胆囊炎( acute cholecystitis )と診断され、その日のうちに入院した。Aさんのバイタルサインは、体温 37.3 ℃、呼吸数 22 /分、脈拍 90 /分、血圧 136 / 84 mmHg。入院後は絶飲食の指示があり、持続点滴静脈内注射と抗菌薬の投与が開始された。トイレ歩行の許可は出ている。 Aさんの病室環境で適切なのはどれか。
- 1.座った時に膝関節が 90 度になる高さにベッドを調整する。
- 2.点滴スタンドをベッドに固定する。
- 3.ポータブルトイレを設置する。
- 4.離床センサーを設置する。
対話形式の解説
博士
今日のAさんは81歳、ADL自立、認知機能に問題なし。急性胆嚢炎で絶飲食・点滴・抗菌薬治療じゃ。
サクラ
トイレ歩行の許可も出てるし、わりと元気そうですね。
博士
そうじゃ。だからこそ『余計な介入で自立を奪わない』ことが大事になる。
サクラ
選択肢3のポータブルトイレは過剰ですね。トイレ歩行できるのに…。
博士
その通り。ポータブルトイレは排泄自立の機会を奪い、廃用症候群を進めてしまう。高齢者ほど『できることはやってもらう』が鉄則じゃ。
サクラ
選択肢4の離床センサーは?転倒予防になりそうですけど。
博士
認知機能に障害がなく自分で判断できるAさんには不要。離床センサーは認知症や術後せん妄など、自己判断が難しい患者に限定して検討する。
サクラ
選択肢2の点滴スタンド固定は、トイレに行けなくなりますよね。
博士
そうじゃ。キャスター付きスタンドを用意して、一緒に動けるようにするのが正解じゃ。初回は看護師が付き添い、点滴ルートを引っ張らない持ち方を指導するとよい。
サクラ
残った選択肢1の『膝関節90度になる高さ』が正解ですね。
博士
うむ。端座位で足底がしっかり床につき、膝・股関節ともに90度になる姿勢が立ち上がりの基本じゃ。目安は床から座面まで35〜40 cm。
サクラ
高すぎると転落、低すぎると立ち上がりにくい、のバランスですね。
博士
その通り。高齢者は筋力もバランス感覚も低下しておる。入院による安静でさらに筋力が落ちるから、最初の一歩目が安全に出せる環境を整えるのじゃ。
サクラ
他にも転倒予防の工夫ってありますか?
博士
ナースコールを手の届く位置に置く、夜間の足元灯、滑らない踵付きの履物、ベッド柵の適切な使用、床にコード類を置かない、など多面的じゃ。
サクラ
服薬にも注意が必要って聞きました。
博士
良い点じゃ。睡眠薬や抗不安薬、降圧薬、利尿薬などは転倒リスクを高める。特に高齢者ではベンゾジアゼピン系睡眠薬のふらつきが有名じゃ。
サクラ
老年看護では『環境・身体・行動』を総合的に見るんですね。
博士
うむ。そして何より患者の自立を尊重する姿勢を忘れるな。
POINT
高齢者の入院時病室環境整備では、患者のADLと認知機能を評価した上で過不足ない介入を選択することが重要です。Aさんはトイレ歩行可・認知機能正常なため、ポータブルトイレや離床センサー、点滴スタンド固定はいずれも過剰または自立阻害となります。座った時に膝関節が90度となるベッドの高さは立ち上がり動作を安全に支援し、転倒予防の基本として覚えておきたい指標(目安35〜40 cm)です。高齢者の転倒予防は環境・身体機能・服薬・行動の多面的評価が必須で、自立尊重とリスク管理のバランスが看護師の腕の見せ所です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 81 歳、男性)は、妻( 73 歳)と 2 人暮らし。自宅でのADLは自立し、認知機能に障害はない。 Aさんは食欲不振と腹部不快感、微熱を主訴に受診したところ、急性胆囊炎( acute cholecystitis )と診断され、その日のうちに入院した。Aさんのバイタルサインは、体温 37.3 ℃、呼吸数 22 /分、脈拍 90 /分、血圧 136 / 84 mmHg。入院後は絶飲食の指示があり、持続点滴静脈内注射と抗菌薬の投与が開始された。トイレ歩行の許可は出ている。 Aさんの病室環境で適切なのはどれか。
解説:正解は 1 の座った時に膝関節が90度になる高さにベッドを調整する、です。高齢者は入院により筋力低下やバランス能力の低下が急速に進行し、転倒・転落リスクが高まります。ベッドに端座位で座った際に足底が床にしっかりと着き、膝関節が90度になる高さが最も立ち上がりやすく、転倒予防に有効な標準姿勢です(目安は床面から座面まで35〜40 cm)。
選択肢考察
-
○ 1. 座った時に膝関節が 90 度になる高さにベッドを調整する。
端座位で足底が床に安定して接地し、膝関節90度・股関節90度となる姿勢は、立ち上がり動作の基本姿勢。この高さだと重心移動がスムーズで筋出力も効率的に使えるため、転倒・転落予防に最適。
-
× 2. 点滴スタンドをベッドに固定する。
トイレ歩行の許可が出ており、自立歩行でトイレへ行ける。点滴スタンドはキャスター付きを用意し一緒に移動できるようにする。ベッドに固定すると患者の歩行を阻害する。
-
× 3. ポータブルトイレを設置する。
ADLが自立しトイレ歩行の許可もあるAさんには不要。ポータブルトイレの設置は自立を妨げる過剰な介入で、むしろ廃用症候群を助長する可能性がある。
-
× 4. 離床センサーを設置する。
認知機能に障害がなくADL自立で、無断離床や徘徊のリスクが低い。離床センサーは転倒リスクの高い認知症患者や術後せん妄患者などに限って検討する。
高齢者の入院関連転倒は入院中の重大事故の上位であり、予防には『環境・身体・行動』の3要素からアプローチする。環境面ではベッドの高さ、ベッド柵、床の滑り防止、夜間照明、ナースコールの配置などを調整。身体面では筋力低下・視力・バランス・服薬(睡眠薬、降圧薬、抗精神病薬)の影響を評価。行動面では排泄時の見守り、履物の選択(踵付きで滑りにくいもの)などがある。高齢者の『転倒予防ベッドの高さ35〜40 cm』は覚えておきたい数字。
高齢者入院時の病室環境整備の原則を問う問題。ADL自立・認知機能正常という患者背景を踏まえた過不足ない介入の選択がポイント。
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