職場で混乱した時どうする?ASDのAさんに贈るクールダウンの知恵
看護師国家試験 第109回 午前 第114問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん(男性、26 歳、会社員)は、高校時代に自閉症スペクトラム( autism spectrum disorder )障害の診断を受け、外来通院をしながら仕事を続けていた。これまでの職場ではストレスが少なく、規則正しい生活ができていた。しかし、1 か月前に新しい職場に異動になってから生活が不規則となり、数日前より無断欠勤が続いている。同居している家族に対してAさんは「家にいると仕事のことばかり考えてしまい眠れない。食欲もないし、環境を変えてゆっくり休みたい」と話したため、Aさんは家族とともに精神科外来を受診し、休養目的で任意入院することになった。 入院後 1 か月、Aさんは十分な休養が得られた。退院後の職場復帰にあたり、Aさんから「仕事がうまくいかないと、すごく混乱して落ち着かなくなってしまう。そうなった時はどうしたら良いか」と看護師に相談があった。 Aさんへの助言で適切なのはどれか。
- 1.「混乱するAさんを職場の人がどう見ているか想像しましょう」
- 2.「多くの人からアドバイスをもらいましょう」
- 3.「混乱した原因を周囲の人に説明しましょう」
- 4.「 1 人で落ち着ける場所に移動しましょう」
対話形式の解説
博士
Aさんは1か月の休養を経て退院が見えてきたのう。しかし復職を前に不安を抱えておるようじゃ。
アユム
『仕事がうまくいかないと混乱して落ち着かなくなる。どうしたらいいか』という相談ですね。リアルな悩みです。
博士
ASDの特性を踏まえた助言が求められる場面じゃ。まず混乱時に起きていることを整理してみよう。
アユム
情報処理が追いつかず、感覚も過敏になって、感情があふれる…というイメージでしょうか。
博士
その通り。そこに他者からの働きかけや刺激が加わると、さらに処理が追いつかなくなる。
アユム
だから選択肢1の『周囲からどう見えるか想像しよう』は難しいのですね。
博士
うむ。ASDの方は他者の視点を想像する『心の理論』の獲得が苦手とされる。混乱中にそれを求めるのは負担が大き過ぎるのじゃ。
アユム
選択肢2の『多くの人にアドバイスをもらう』も複数情報で混乱しそうです。
博士
正解じゃ。アドバイスが相反することもある。頼る相手は信頼できる少数に絞るほうがよい。
アユム
選択肢3の『周囲に原因を説明する』はどうでしょう?
博士
混乱している最中に言語化することは非常に難しい。原因の整理は落ち着いた後に支援者と一緒に行うのがよい。
アユム
残る選択肢4の『1人で落ち着ける場所に移動する』が最も具体的で実行しやすそうですね。
博士
その通り。刺激を遮断して自律神経の興奮を鎮める『クールダウン』の技法じゃ。精神科リハビリテーションでも広く活用されておる。
アユム
退院前にあらかじめ計画しておくと実行しやすそうです。
博士
うむ。混乱時の行動プランを紙に書いておくとよい。場所・時間・連絡する人・使うアイテムを決めておくのじゃ。
アユム
職場に合理的配慮を求めることもできるのですか?
博士
障害者差別解消法と改正障害者雇用促進法により、2024年4月から民間企業にも合理的配慮の提供が義務化された。休憩スペースの確保や予定変更の事前通知などを相談できる。
アユム
ジョブコーチや産業医との連携も大切ですね。看護師はその橋渡しもするのでしょうか?
博士
そうじゃ。医療と職場をつなぐリワーク支援は看護の重要な役割の一つ。Aさんが社会で生き生きと働き続けるための支援を、私たちも意識するのじゃよ。
POINT
自閉スペクトラム症の人は、混乱や情報過多の中では感覚過敏や情報処理の飽和からさらに不安定になりやすく、まず刺激を遮断することが最優先のセルフケアとなります。『1人で落ち着ける場所に移動する』という助言は、具体的で実行可能なクールダウン法であり、ASDの特性と合致します。一方、他者視点の想像、複数からの助言、原因の言語化はいずれも特性上困難な課題であり、混乱時にはむしろ症状を悪化させかねません。退院前に行動プランを書面化し、職場には合理的配慮(2024年4月から民間企業も義務化)として休憩スペースや予定変更の事前通知を求めておくことで再休職リスクを下げられます。看護師は医療と職場を結ぶリワーク支援の担い手として、本人のセルフマネジメント力を育む視点を持つことが求められます。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん(男性、26 歳、会社員)は、高校時代に自閉症スペクトラム( autism spectrum disorder )障害の診断を受け、外来通院をしながら仕事を続けていた。これまでの職場ではストレスが少なく、規則正しい生活ができていた。しかし、1 か月前に新しい職場に異動になってから生活が不規則となり、数日前より無断欠勤が続いている。同居している家族に対してAさんは「家にいると仕事のことばかり考えてしまい眠れない。食欲もないし、環境を変えてゆっくり休みたい」と話したため、Aさんは家族とともに精神科外来を受診し、休養目的で任意入院することになった。 入院後 1 か月、Aさんは十分な休養が得られた。退院後の職場復帰にあたり、Aさんから「仕事がうまくいかないと、すごく混乱して落ち着かなくなってしまう。そうなった時はどうしたら良いか」と看護師に相談があった。 Aさんへの助言で適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。自閉スペクトラム症の人は、混乱した状態で多くの刺激や情報にさらされると、感覚過敏や情報処理の負荷から症状がさらに悪化しやすい特性があります。混乱時に取るべき対処は、まず刺激を遮断して落ち着ける環境を確保することで、静かな場所や一人になれる空間へ移動することが具体的かつ実行可能なセルフケアとなります。これは精神科リハビリテーションでも広く用いられる『タイムアウト』『クールダウン』の考え方と一致します。
選択肢考察
-
× 1. 「混乱するAさんを職場の人がどう見ているか想像しましょう」
ASDの人は他者の視点に立って考える『心の理論』の獲得が苦手とされ、他者がどう見ているかを想像する課題は負担が大きくかえって混乱や自己否定を強める。自尊感情の低下にもつながるため不適切。
-
× 2. 「多くの人からアドバイスをもらいましょう」
複数の情報を統合して判断することが苦手なため、多数のアドバイスは相反する助言を含みがちで混乱を増強させる。頼る相手は信頼できる少数に絞り、情報源を一元化するのが望ましい。
-
× 3. 「混乱した原因を周囲の人に説明しましょう」
ASDの人は感情や状況を言語化することが難しく、混乱している最中に自分の状態を他者に説明することはさらなる負荷となる。原因の説明は落ち着いた後、支援者と一緒に整理すれば十分である。
-
○ 4. 「 1 人で落ち着ける場所に移動しましょう」
刺激を遮断し自律神経の興奮を鎮める具体的な対処法で、ASDの特性に合った実行可能なセルフマネジメント。あらかじめ職場に相談してクールダウンできる場所を確保しておくと、実際の場面で動きやすくなる。
職場復帰支援(リワーク)では、発症・再発を防ぐためのセルフケア技法として『早期対処(early intervention)』が重視される。ASDの人には、混乱時の行動プラン(クールダウン場所・時間・使うアイテム・連絡する人)を書面化しておくと実行しやすい。また障害者雇用やジョブコーチ制度、合理的配慮の申請(2024年4月からは民間企業でも義務化)を活用し、休憩スペースの確保、予定変更の事前通知、指示の視覚化などを職場と調整しておくことが再休職予防に有効である。
ASDの特性(刺激・対人・言語化の困難)を踏まえ、混乱時のセルフマネジメントとして何が実行可能か問う問題。刺激の少ない場所への移動というシンプルで具体的な対処が答えとなる。
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