自傷行為で緊急入院、看護師が入院当日にすべき関わりとは
看護師国家試験 第109回 午後 第109問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 22 歳、女性、会社員)は、昼食後、自室に大量のお菓子とお酒を持ち込み、食べて飲んでいたところを母親に注意をされたことに腹を立て、母親の目の前でリストカットを始めた。慌てた母親は、父親とともにAさんを連れて救急外来に来院した。医師が傷の処置をしようとすると「死んでやる。触るな」と大声で騒ぎ暴れ始めたため、精神科病棟に緊急入院となった。 入院当日、Aさんに対する看護師の関わりで適切なのはどれか。
- 1.短期間の入院となることを伝える。
- 2.母親と関係修復をするように促す。
- 3.リストカットをしないように説得する。
- 4.Aさんの心身を心配していることを伝える。
対話形式の解説
博士
今日は22歳女性Aさんの自傷行為による精神科緊急入院のケースじゃ。入院当日の関わりを考えよう。
サクラ
リストカットって「死にたい」気持ちから来ているんですか?
博士
多くの場合は違うのじゃ。自傷行為は「生き続けるため」の対処行動として行われることが多い。
サクラ
ええっ、どういう意味ですか?
博士
強い不安、怒り、空虚感、解離感といった耐えがたい情動を、身体的な痛みで一時的に打ち消したり、解放感を得たりする。いわば感情調節の手段なのじゃ。
サクラ
だから「死んでやる」と言いながらも、本当の自殺企図とは動機が違うんですね。
博士
そこは重要な区別じゃ。ただし自傷の繰り返しは自殺既遂のリスクも高めるので軽視はできん。
サクラ
入院当日の看護師の関わりとしては、何がベストなんでしょう?
博士
選択肢1「短期間の入院」は?
サクラ
根拠なく短期と決めつけたら、後で長引いたとき信頼を失いますし、そもそも当日に判断できません。
博士
選択肢2「母親と関係修復」は?
サクラ
家族関係が背景にあるかもしれませんが、興奮している当日に修復を迫るのは早すぎます。本人の気持ちをまず受け止めないと。
博士
選択肢3「リストカットをやめるよう説得」は?
サクラ
「もうしないって約束してね」みたいな…これは逆効果になりそうです。
博士
その通りじゃ。自傷は説得ではやめられん。約束を強要すると、隠れてやるようになり、看護師との関係が途切れる。
サクラ
選択肢4「心身を心配している」と伝える、が正解ですね。
博士
うむ。非審判的で受容的な姿勢、「あなたを気にかけている」というメッセージは治療的関係の出発点じゃ。
サクラ
精神科看護の基本原則としては他にどんなことがありますか?
博士
安全確保、非審判的傾聴、対処スキルの共有、家族支援、長期的心理療法じゃ。特に弁証法的行動療法(DBT)は境界性パーソナリティ障害や自傷に有効とされる。
サクラ
代替行動ってどんなものがありますか?
博士
氷を握って冷たさで意識をそらす、ゴムバンドを腕にはじく、赤いマジックで肌に線を描く、激しい運動で発散するなど。感情が高まったときの代替案を本人と一緒に考えるのじゃ。
サクラ
「切らないで」じゃなく「切りたくなったら一緒に考えよう」という姿勢ですね。
博士
その通り。受容と協働が柱じゃ。
サクラ
背景にトラウマや逆境体験があることも多いんですよね。
博士
うむ。幼少期の逆境体験、情動調節の未熟さ、対人関係の不安定さなど複合的要因が関わる。時間をかけて信頼関係を築き、内的な苦痛に焦点を当てていく必要がある。
POINT
自傷行為は死を目的としない情動調節の対処行動として生じることが多く、看護の初期対応では非審判的で受容的な関わりによる治療的関係構築が最優先です。Aさんへの入院当日の関わりでは、「心身を心配している」と伝えることが信頼の出発点となり、期間の断定・家族関係の修復要求・行動の説得は時期尚早で逆効果になり得ます。長期的には安全確保、対処スキルの共有、家族支援、DBTなどの心理療法的介入を組み合わせ、本人の苦痛と情動調節の困難に寄り添う姿勢が求められます。看護師の受容的態度そのものが治療的介入となる、精神科看護の根本を象徴するケースです。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 22 歳、女性、会社員)は、昼食後、自室に大量のお菓子とお酒を持ち込み、食べて飲んでいたところを母親に注意をされたことに腹を立て、母親の目の前でリストカットを始めた。慌てた母親は、父親とともにAさんを連れて救急外来に来院した。医師が傷の処置をしようとすると「死んでやる。触るな」と大声で騒ぎ暴れ始めたため、精神科病棟に緊急入院となった。 入院当日、Aさんに対する看護師の関わりで適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。自傷行為は「死ぬため」ではなく、強い不安・怒り・空虚感などの耐えがたい情動を一時的に和らげる対処行動としてなされることが多い。入院当日の関わりでは、まず治療的関係の基盤を作ることが最優先であり、非審判的な態度で「心身を心配している」と伝えることが信頼構築につながる。批判・説得・約束の強要は関係を壊し、行動の隠蔽を招く。
選択肢考察
-
× 1. 短期間の入院となることを伝える。
入院期間は経過により変動し、入院当日に確定的な見通しは示せない。根拠のない断定は不信感を生み、後の変更時に混乱を招く。
-
× 2. 母親と関係修復をするように促す。
家族関係はアセスメントの対象だが、入院当日の興奮状態で修復を促すのは時期尚早。まずはAさん自身との信頼関係構築と情動の落ち着きが先。
-
× 3. リストカットをしないように説得する。
自傷行為は説得でやめられる行動ではなく、背景の情動と対処機能に介入する必要がある。頭ごなしの禁止は本人を追い詰め、関係形成を妨げる。
-
○ 4. Aさんの心身を心配していることを伝える。
非審判的・受容的な関わりで「あなたを気にかけている」と伝えることは、治療的関係の土台となる。入院当日の最優先介入として適切である。
自傷行為は思春期〜若年女性に多く、背景には幼少期の逆境体験、情動調節困難、対人関係の不安定さ、自己評価の低さなどがある。DSM-5では「非自殺性自傷」が研究用診断カテゴリーとして挙げられている。看護の基本原則は、(1)安全確保(危険物の管理)、(2)非審判的傾聴、(3)対処スキルの共有(氷を握る、ゴムバンドをはじくなど代替行動)、(4)家族支援、(5)長期的な心理療法(DBT=弁証法的行動療法などが有効)である。約束を強要せず、「もし切りたくなったら一緒に考えよう」と一緒に対処する姿勢が効果的。
自傷行為の患者に対する初期対応で、治療的関係の構築を最優先とする看護の基本姿勢を問う問題。
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