過食嘔吐を繰り返す神経性過食症、最優先すべき検査は?
看護師国家試験 第109回 午後 第110問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 22 歳、女性、会社員)は、昼食後、自室に大量のお菓子とお酒を持ち込み、食べて飲んでいたところを母親に注意をされたことに腹を立て、母親の目の前でリストカットを始めた。慌てた母親は、父親とともにAさんを連れて救急外来に来院した。医師が傷の処置をしようとすると「死んでやる。触るな」と大声で騒ぎ暴れ始めたため、精神科病棟に緊急入院となった。 入院翌日、母親が面会に来たが、Aさんに要求されるままお菓子を大量に持参した。Aさんは、面会室でお菓子をすべて食べた直後に、トイレにこもり、嘔吐していたところを看護師が発見した。Aさんは泣きながら「食べると止まらなくなる。太りたくない」と訴えた。主治医は、Aさんが右第 2 指を使って嘔吐していた痕跡を認めたこと、Aさんが「中学の時から過食と嘔吐を繰り返していた」と話したことから、神経性過食症( bulimia nervosa )と診断した。 入院時の身体所見:身長 155 cm、体重 48 kg。 入院時の検査所見:赤血球 400 万/μL、Hb 12.5 g /dL、白血球 6,300 /μL。Na 135 mEq /L、K 2.7 mEq /L、Cl 98 mEq/L、AST 30 U/L、ALT 35 U/L、γ − GTP 32 U/L。 Aさんの状態をアセスメントするために優先度が高い検査はどれか。
- 1.心電図
- 2.頭部CT
- 3.腹部超音波
- 4.上部消化管内視鏡
対話形式の解説
博士
今度はAさんが神経性過食症と診断された場面じゃ。検査値を見ると低カリウム血症がある。最優先の検査は何か考えよう。
アユム
K 2.7 mEq/L…基準が3.5〜5.0だから、かなり低いですね。
博士
そうじゃ。まず低カリウム血症が何を引き起こすか整理しよう。
アユム
筋力低下、便秘、脱力感…あと心臓にも影響するんですよね?
博士
その通り、最大の危険は致死性不整脈じゃ。心筋の再分極が遅れて、QT延長、U波出現、T波平低化などが起こり、最悪は心室頻拍や心停止に至る。
アユム
神経性過食症の死亡原因として電解質異常による不整脈は最も多いんですね。
博士
うむ。じゃから入院時には必ず心電図で評価する必要がある。選択肢1の心電図が正解じゃ。
アユム
他の選択肢はなぜ優先度が低いんですか?
博士
頭部CTは?
アユム
意識障害や神経学的症状があればですが、Aさんにはそれがないので必要性が乏しいです。
博士
腹部超音波は?
アユム
AST、ALT、γ-GTP全て基準内で肝胆膵の異常を示す所見がないですね。
博士
上部消化管内視鏡は?
アユム
嘔吐を繰り返していると食道粘膜損傷やマロリー・ワイス症候群のリスクはありますが、吐血や貧血は現時点でないから緊急度は低いです。
博士
よく整理できた。神経性過食症の身体合併症をもう少し広げて確認しようか。
アユム
お願いします。
博士
排出行動(嘔吐、緩下薬乱用、利尿薬乱用)により、低カリウム血症、低クロール血症、代謝性アルカローシスが典型じゃ。
アユム
Aさんのデータもまさにそれですね。K 2.7、Cl 98でともに低下、Naもやや低め。
博士
さらに特徴的な所見として、唾液腺(耳下腺)腫大、歯のエナメル質喪失、そしてラッセルサインというのがある。
アユム
ラッセルサイン?
博士
自己誘発嘔吐のために指を喉に入れる際、歯に当たってできる手背のタコや傷じゃ。問題文の「右第2指の痕跡」がまさにこれじゃよ。
アユム
なるほど、身体所見から嘔吐の常習性が推定できるんですね。
博士
その通り。他に食道炎、マロリー・ワイス症候群、月経異常、骨密度低下なども起こる。
アユム
低カリウム血症の治療はどうするんですか?
博士
K 3.0未満で補正を考慮、2.5未満は緊急補正、通常は経口または静脈内で補充する。ただし急速静注は不整脈誘発のリスクがあり慎重な速度管理が必要じゃ。
アユム
看護の視点では、心電図モニタリングと電解質フォローアップが柱になりますね。
博士
そうじゃ。加えて排出行動の観察(食後のトイレ行動のモニタ)、家族や食事場面の構造化、心理療法導入も重要な介入じゃ。
アユム
身体と心理の両面から支える必要があるんですね。
POINT
神経性過食症で自己誘発嘔吐を繰り返す患者では、低カリウム血症、低クロール血症、代謝性アルカローシスが高頻度に認められ、中でも低カリウム血症による致死性不整脈が最も警戒すべき合併症です。Aさんの血清K 2.7 mEq/Lは明らかな異常値で、QT延長やU波出現、心室性不整脈のリスクを早期に検出するため心電図が最優先となります。ラッセルサイン、唾液腺腫大、歯のエナメル質喪失など身体所見からも排出行動の常習性が推定でき、総合的アセスメントが重要です。看護では電解質と心電図のモニタリングに加え、食後行動の観察、構造化された食事環境、心理療法導入といった身体と心理の両輪からの介入が求められる疾患です。
解答・解説
正解は 1 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 22 歳、女性、会社員)は、昼食後、自室に大量のお菓子とお酒を持ち込み、食べて飲んでいたところを母親に注意をされたことに腹を立て、母親の目の前でリストカットを始めた。慌てた母親は、父親とともにAさんを連れて救急外来に来院した。医師が傷の処置をしようとすると「死んでやる。触るな」と大声で騒ぎ暴れ始めたため、精神科病棟に緊急入院となった。 入院翌日、母親が面会に来たが、Aさんに要求されるままお菓子を大量に持参した。Aさんは、面会室でお菓子をすべて食べた直後に、トイレにこもり、嘔吐していたところを看護師が発見した。Aさんは泣きながら「食べると止まらなくなる。太りたくない」と訴えた。主治医は、Aさんが右第 2 指を使って嘔吐していた痕跡を認めたこと、Aさんが「中学の時から過食と嘔吐を繰り返していた」と話したことから、神経性過食症( bulimia nervosa )と診断した。 入院時の身体所見:身長 155 cm、体重 48 kg。 入院時の検査所見:赤血球 400 万/μL、Hb 12.5 g /dL、白血球 6,300 /μL。Na 135 mEq /L、K 2.7 mEq /L、Cl 98 mEq/L、AST 30 U/L、ALT 35 U/L、γ − GTP 32 U/L。 Aさんの状態をアセスメントするために優先度が高い検査はどれか。
解説:正解は 1 です。Aさんは自己誘発嘔吐を繰り返しており、血清K 2.7 mEq/Lと明らかな低カリウム血症を呈している(基準3.5〜5.0)。低カリウム血症は心筋の再分極遅延を起こし、QT延長、U波出現、T波平低化、さらに心室頻拍(Torsades de pointes含む)や心停止といった致死性不整脈を誘発する。神経性過食症の死因として電解質異常に伴う致死性不整脈が最重要であり、心電図で不整脈の有無と重症度を直ちに評価することが最優先となる。
選択肢考察
-
○ 1. 心電図
低カリウム血症による致死性不整脈を早期に検出するため最優先。QT延長、U波、T波平低化、ST低下、心室性不整脈の有無を評価する。
-
× 2. 頭部CT
意識障害や局所神経症状があれば検討するが、本例では適応がない。頭蓋内病変を示唆する所見もなく、優先度は低い。
-
× 3. 腹部超音波
肝酵素は基準範囲内で肝胆膵疾患を示唆する所見はなく、緊急性はない。将来的に栄養障害の評価としては有用だが優先度は低い。
-
× 4. 上部消化管内視鏡
反復嘔吐で胃食道逆流やマロリー・ワイス症候群のリスクはあるが、吐血や著明な貧血はなく、内視鏡は侵襲が大きく現時点では優先度が低い。
神経性過食症では自己誘発嘔吐、緩下薬・利尿薬乱用、絶食などの排出行動により、低カリウム血症、低クロール血症、代謝性アルカローシスが生じやすい。身体合併症として、唾液腺腫大、歯のエナメル質喪失(胃酸による)、手背の吐きダコ(ラッセルサイン、まさに右第2指の痕跡に相当)、食道炎、マロリー・ワイス症候群、心不整脈、脱水、月経異常などが知られる。血清K 3.0未満で不整脈リスクが高まり、2.5未満は緊急補正の対象。心電図変化としてはT波平低化・陰転化→U波出現→QT(QU)延長→ST低下→心室性期外収縮→心室頻拍/細動の順で進行する。
神経性過食症で嘔吐を繰り返す患者の検査値から致死的合併症を予測し、最優先の検査を選ぶ臨床判断を問う問題。
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