尻拭いは愛じゃない――アルコール依存症家族のイネイブリングを止める
看護師国家試験 第109回 午後 第113問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 43 歳、男性、会社員)は、妻( 38 歳)と 2 人暮らし。1 年前から、仕事上の失敗を上司から叱責されることが続いていた。半年前からAさんの飲酒量は次第に増えていき、最近では酒気を帯びたままの出勤や、飲酒を原因とした遅刻や欠勤をすることが増えていた。ある夜、Aさんは居酒屋で多量に飲酒し、その場で意識が消失したため、救急車で救命救急センターへ搬送され、入院となった。器質的検査および生理的検査では異常が認められなかったが、入院翌日に飲酒の問題について同じ病院内の精神科を受診した結果、Aさんはアルコール依存症( alcohol dependence syndrome )と診断された。 入院後 3 日。面会に来た妻は、飲酒によって多くのトラブルを抱えているAさんへの対応に困っており、Aさんの飲酒行動に対する関わり方について、今後どのようにすればよいか看護師に相談した。 Aさんの妻に対する助言で適切なのはどれか。
- 1.「飲酒による仕事上の失敗についてAさんと議論しましょう」
- 2.「飲酒したいというAさんの気持ちは聞かないようにしましょう」
- 3.「Aさんが飲酒したことがわかっても注意はしないようにしましょう」
- 4.「Aさんの飲酒によるトラブルを代わりに解決しないようにしましょう」
対話形式の解説
博士
さて、Aさんの事例の続きじゃ。面会に来た妻は「夫の飲酒トラブルへの対応にどう関わればいいか」と看護師に相談してきた。
サクラ
家族としては、なんとかしてあげたいという気持ちになりますよね。借金を代わりに払ったり、会社に連絡を入れたり…。
博士
まさにそこじゃ。善意でやるその行動が、回復を妨げる最大の落とし穴になる。なんという概念か知っておるかな。
サクラ
えっと、イネイブリングですか。聞いたことはあります。
博士
正解じゃ。イネイブリングとは「飲酒を可能にし、助長する」行動のこと。周囲が飲酒の後始末をしてしまうと、本人は飲酒による結果を直面できず、問題の深刻さを体験しないまま飲み続けてしまう。
サクラ
たしかに、自分の失敗をいつも誰かが片付けてくれたら、現実を見ないで済みますよね。
博士
だから選択肢4の「Aさんの飲酒によるトラブルを代わりに解決しないようにしましょう」が正解になる。これは冷たい対応ではなく、本人の回復を本気で願う関わり方じゃ。
サクラ
でも選択肢2「飲酒したい気持ちは聞かないように」というのはダメなんですね。つい遠ざけたくなる気もしますが。
博士
渇望感(クレイビング)は治療のなかで取り扱うべき大事なテーマじゃ。家族が耳を傾けることは支えになる。聞かないように遮断するのは逆効果。
サクラ
選択肢1の「議論する」は、責め立てになって再飲酒の引き金になりそうですね。
博士
そのとおり。議論は感情的になりやすく、本人に強い自責や怒りを生じさせる。事実の整理は治療チームの場で行うのがよい。
サクラ
選択肢3「飲酒がわかっても注意しない」は、放置になっちゃいますね。
博士
そうじゃ。治療目標は断酒。冷静に事実を伝え、主治医や自助グループに共有することが大事。ちなみに、一口でも飲むと元の飲酒パターンに戻りやすいことを何効果という?
サクラ
プライミング効果、でしたっけ。
博士
うむ、よく覚えておる。家族はこの特性も理解して、再飲酒を軽く見ないようにする必要がある。
サクラ
家族自身も辛いですよね。何かサポートはないんですか。
博士
Al-Anonという家族のための自助グループがある。日本にもあるぞ。家族教室や精神保健福祉センターの家族相談も利用できる。共依存から距離を置くために、家族のケアも欠かせない。
サクラ
本人への支援と家族への支援はセットなんですね。イネイブリングという概念、今日でしっかり頭に入りました。
POINT
アルコール依存症では、家族が善意で飲酒のトラブル(欠勤連絡、借金の肩代わり、対人トラブルの謝罪など)を肩代わりし続けることをイネイブリング(共依存的助長)と呼びます。この行動は本人が飲酒の結果に直面する機会を奪い、依存症を維持させる最大の要因となります。したがって家族への助言は、尻拭いをやめ、本人が責任を引き受けられる関係に切り替えることが中心となります。一方で、渇望感の訴えを聞く、再飲酒に対して冷静に注意する、といった行動は治療的に重要で、避けるべきではありません。Al-Anonや家族教室など家族自身のサポート資源も紹介し、本人と家族を一体で支える視点が看護師には求められます。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 43 歳、男性、会社員)は、妻( 38 歳)と 2 人暮らし。1 年前から、仕事上の失敗を上司から叱責されることが続いていた。半年前からAさんの飲酒量は次第に増えていき、最近では酒気を帯びたままの出勤や、飲酒を原因とした遅刻や欠勤をすることが増えていた。ある夜、Aさんは居酒屋で多量に飲酒し、その場で意識が消失したため、救急車で救命救急センターへ搬送され、入院となった。器質的検査および生理的検査では異常が認められなかったが、入院翌日に飲酒の問題について同じ病院内の精神科を受診した結果、Aさんはアルコール依存症( alcohol dependence syndrome )と診断された。 入院後 3 日。面会に来た妻は、飲酒によって多くのトラブルを抱えているAさんへの対応に困っており、Aさんの飲酒行動に対する関わり方について、今後どのようにすればよいか看護師に相談した。 Aさんの妻に対する助言で適切なのはどれか。
解説:正解は 4 の「Aさんの飲酒によるトラブルを代わりに解決しないようにしましょう」です。アルコール依存症では、家族や周囲が善意で飲酒の後始末(欠勤の連絡を代わりにする、借金を肩代わりする、暴れた後の謝罪をするなど)を続けると、本人が飲酒による結果を直面的に体験せずに済むため、かえって飲酒行動を維持させてしまいます。これを「イネイブリング(enabling/共依存的助長)」と呼び、回復を妨げる典型パターンとして家族支援の場面で必ず説明される概念です。本人に自身の飲酒問題と向き合ってもらうためには、家族は尻拭いをやめ、本人が行動の責任を負える関係性へ切り替えることが不可欠です。
選択肢考察
-
× 1. 「飲酒による仕事上の失敗についてAさんと議論しましょう」
責め立てるような議論はAさんに強い自責や怒りを生じさせ、再飲酒の引き金(トリガー)になりかねない。事実確認と感情整理は医療者も交えた場で行うのが望ましい。
-
× 2. 「飲酒したいというAさんの気持ちは聞かないようにしましょう」
渇望感そのものは治療の中で取り扱うべき重要なサインである。家族が気持ちを傾聴し共有することは、回復に向けた支えとなるため、遮断は適切でない。
-
× 3. 「Aさんが飲酒したことがわかっても注意はしないようにしましょう」
治療目標は断酒であり、再飲酒を放置することは容認と同義になってしまう。冷静に事実を伝え、主治医や自助グループと共有することが必要。
-
○ 4. 「Aさんの飲酒によるトラブルを代わりに解決しないようにしましょう」
イネイブリング行動を避け、飲酒の結果を本人が引き受けられるようにすることが回復への第一歩となる。家族自身も共依存から距離を置くことが求められる。
アルコール依存症の家族支援では、Al-Anon(家族の自助グループ)や家族教室への参加が推奨される。本人のみならず家族自身のケアが重要で、共依存(codependency)に陥っていないかの自己点検を促す。治療目標は原則「断酒」であり、一口でも飲めば従前の飲酒パターンに戻りやすい(プライミング効果)ことも家族に理解してもらう必要がある。
アルコール依存症における家族のイネイブリング(共依存的助長)を理解し、適切な家族支援の方向性を選ぶ設問。
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