「飲み忘れたんです」という言葉に隠された支援のヒント
看護師国家試験 第112回 午後 第109問 / 精神看護学 / 状況設定問題
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性)は、年金の給付を受けて生活している父親(82歳)と2人暮らしで、母親は2年前に亡くなっている。20歳のときに統合失調症(schizophrenia)と診断された。20歳代で何回か仕事に就いたが長続きはしなかった。40歳からは無職で、デイケアへ通所していた。1年前にデイケアを中断してからは、ほとんどの時間を自宅で過ごしているが、月1回の外来通院は継続している。Aさんが飲まなかった薬がたくさん残っていることを父親が発見し、主治医に相談した。この相談をきっかけに、週1回の精神科訪問看護を導入することになった。初回訪問時にAさんは「薬は飲み忘れたんです。心配かけてごめんなさい」と父親と訪問看護師に話した。 このときの訪問看護師の対応で優先度が高いのはどれか。
- 1.父親に薬の管理を依頼する。
- 2.薬を飲み忘れない方法を話し合う。
- 3.外来受診時に薬局の薬剤師に服薬指導を依頼する。
- 4.デイケアの再開を主治医と相談するように提案する。
対話形式の解説
博士
今回は統合失調症のAさんへの初回訪問看護じゃ。残薬が多かったのがきっかけで訪問が始まったのじゃな。
サクラ
Aさんは「飲み忘れたんです」と自分から言っていますね。
博士
そこが重要な手がかりじゃ。拒薬ではなく飲み忘れ、つまり服薬の必要性自体は認識している可能性が高い。
サクラ
統合失調症の服薬中断って、そんなに危険なんですか?
博士
服薬中断は再発率を約5倍に上げると言われておる。再発を繰り返すほど認知機能や社会機能が低下し、治療反応性も悪くなる。だからアドヒアランス維持が生命線なのじゃ。
サクラ
飲み忘れの原因って、どんなものがあるんですか?
博士
大きく分けて5つじゃ。副作用(錐体外路症状、眠気、体重増加など)、病識の乏しさ、服薬の煩雑さ、認知機能障害による単純な忘却、そして支援者不足。
サクラ
Aさんの場合は、どれにあたりそうですか?
博士
文脈からは「単純な飲み忘れ」の線が濃いな。だが実際には複合していることも多い。まずは本人に聞いてみるのが一番じゃ。
サクラ
だから選択肢2の「飲み忘れない方法を話し合う」が正解なんですね。
博士
その通り。原因を共有したうえで、服薬カレンダー、一包化、ピルケース、スマートフォンアラーム、冷蔵庫やトイレなどよく見る場所への置き薬など、本人が続けやすい工夫を一緒に選ぶ。
サクラ
選択肢1の父親に管理を依頼するのは?
博士
父親は82歳で、自身にも老化や疾病のリスクがある。全責任を委ねるのは負担が大きすぎるうえ、Aさんの自己管理力を奪ってしまう。
サクラ
選択肢3の薬剤師による服薬指導は?
博士
有用な資源じゃが、外来は月1回。毎日の飲み忘れ対策には、在宅で関わる訪問看護師の方が強みを発揮できる。
サクラ
選択肢4のデイケア再開は?
博士
社会参加の観点から中長期目標になりうるが、初回訪問で優先度を上げるのは早い。まずは目の前の服薬継続の仕組みづくりが先決じゃ。
サクラ
副作用が原因で飲めない人には、どう支援するんですか?
博士
主治医と相談して剤型や種類を変える、持効性注射剤(LAI/デポ剤)に切り替える、といった方法がある。LAIは2〜4週に1回の注射で、飲み忘れ問題を根本から解決できる選択肢じゃ。
サクラ
「非難しない姿勢」が大切って、よく聞きます。
博士
うむ。「なぜ飲めないの?」ではなく「どうすれば続けやすいか一緒に考えよう」という姿勢じゃ。責められたと感じれば、正直に話せなくなる。
サクラ
信頼関係と工夫、両輪で支えるんですね。
POINT
統合失調症の在宅支援では、服薬アドヒアランスの維持が再発予防の要となります。Aさんは拒薬ではなく飲み忘れと語っており、まず本人と飲み忘れのパターンや原因を共有し、服薬カレンダー、一包化、アラーム、家族からの声かけなど実行可能な工夫を一緒に決めることが最優先です。高齢の父親への全面委託、月1回の薬剤師指導、デイケア再開はいずれも補助的選択肢であり、初回訪問での優先度は劣ります。服薬中断は再発率を大きく上げ、社会機能や認知機能の低下を招くため、持効性注射剤への変更を含む医師との連携も視野に入れます。看護師は「非難しない姿勢」で本人の主体性を支え、無理なく続けられる仕組みづくりを共同構築することが求められます。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性)は、年金の給付を受けて生活している父親(82歳)と2人暮らしで、母親は2年前に亡くなっている。20歳のときに統合失調症(schizophrenia)と診断された。20歳代で何回か仕事に就いたが長続きはしなかった。40歳からは無職で、デイケアへ通所していた。1年前にデイケアを中断してからは、ほとんどの時間を自宅で過ごしているが、月1回の外来通院は継続している。Aさんが飲まなかった薬がたくさん残っていることを父親が発見し、主治医に相談した。この相談をきっかけに、週1回の精神科訪問看護を導入することになった。初回訪問時にAさんは「薬は飲み忘れたんです。心配かけてごめんなさい」と父親と訪問看護師に話した。 このときの訪問看護師の対応で優先度が高いのはどれか。
解説:正解は 2 です。Aさんは拒薬ではなく「飲み忘れ」と自ら述べており、服薬の必要性自体は理解している可能性があります。統合失調症では服薬中断が再発・再入院の最大要因であり、アドヒアランスを維持する具体策を本人と一緒に検討することが看護の中心課題です。まずAさん自身と飲み忘れのパターンや原因を確認し、服薬カレンダー、一包化、アラーム、家族からの声かけなど実行可能な工夫を一緒に決めることが最優先となります。高齢の父親に管理を全面委託したり、本人抜きで薬剤師指導やデイケア復帰を進めるよりも、本人のセルフマネジメント力を高める介入が優先されます。
選択肢考察
-
× 1. 父親に薬の管理を依頼する。
父親は82歳で自身にも健康課題がある可能性が高く、服薬管理の全責任を負わせるのは負担が大きい。またAさんの自己管理能力を奪うことにもなり、長期的な安定に寄与しにくい。
-
○ 2. 薬を飲み忘れない方法を話し合う。
Aさんは拒薬ではなく飲み忘れと述べており、必要性は認識している可能性がある。本人と一緒に飲み忘れの原因や工夫(服薬カレンダー、一包化、アラーム等)を検討することが、再発予防に最も直結する支援。
-
× 3. 外来受診時に薬局の薬剤師に服薬指導を依頼する。
薬剤師による服薬指導は有用だが、月1回の外来では飲み忘れの日常的支援には限界がある。まずは訪問看護師が在宅での具体的な工夫を本人と共有するほうが優先度が高い。
-
× 4. デイケアの再開を主治医と相談するように提案する。
デイケア再開は社会参加の観点から将来的な目標となりうるが、まずは目下の課題である服薬継続の工夫を本人と整えることが先決。初回訪問の段階での優先度は低い。
統合失調症のアドヒアランス低下の要因:①副作用(錐体外路症状、体重増加、鎮静など)、②病識の乏しさ、③服薬の煩雑さ、④認知機能障害による飲み忘れ、⑤支援者不足など。対策としては持効性注射剤(LAI/デポ剤)への変更、一包化、服薬カレンダー、ピルケース、スマートフォンアラーム、訪問看護師や家族による見守り、心理教育によるアドヒアランス向上などがある。服薬中断は再発率を約5倍に上げるとされ、再入院による社会機能低下や認知機能障害の蓄積を招く。看護師は「非難しない態度で原因を一緒に探る」姿勢が基本となる。
精神科訪問看護の初回場面で、服薬アドヒアランス支援の優先度を判断する問題。
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