災害医療体制と法規
看護の統合と実践 / 災害看護
解説
今回は災害医療体制と法規について解説します。
災害医療の基本
災害医療とは、地震・津波・台風などの自然災害や大規模事故において、限られた医療資源で最大多数の傷病者を救命することを目的とした医療活動です。日常診療と異なり、需要が供給を大きく上回るため、「防ぎえた災害死(preventable disaster death)をゼロにする」ことが共通の理念となっています。災害医療を理解するうえで重要なのは、時間経過に伴う「災害サイクル」と、それぞれの時期に活動する医療チーム、そして体制を支える法律の枠組みです。
災害サイクル
災害は時間軸で区分され、これを災害サイクルと呼びます。発災直後から72時間程度までを超急性期・急性期、その後数週間までを亜急性期、それ以降を慢性期、平時を静穏期・準備期と分類します。急性期には外傷や圧挫症候群(クラッシュ症候群)など救命処置を要する傷病が多く、亜急性期以降は感染症・生活不活発病・心理的ストレスへの対応が中心となります。
災害関連法規
災害医療を支える法律は、目的別に3本柱で整理できます。
災害対策基本法
災害対策基本法は、1959年の伊勢湾台風を契機として1961年に制定された、日本の防災体制の基本となる法律です。国・都道府県・市町村および指定公共機関に対し、防災基本計画や地域防災計画の策定を義務づけ、住民にも食料・飲料水などの備蓄や防災訓練への参加といった努力義務を課しています。同法では、災害時に特に支援を要する人を要配慮者と定義し、高齢者・障害者・乳幼児・妊産婦・傷病者・難病患者・外国人などを含みます。さらに自ら避難することが困難な者を「避難行動要支援者」として、市町村が名簿を作成することが定められています。
災害救助法と災害弔慰金法
災害救助法は、「災害を受け又は受ける恐れのある者の保護と社会の秩序の保全」を図ることを目的として、発災後の応急救助を実施するための法律です。救助の種類としては、避難所および応急仮設住宅の供与、炊き出しその他による食品の給与、飲料水の供給、被服・寝具その他生活必需品の給与または貸与、医療および助産、被災者の救出、住宅の応急修理、学用品の給与、埋葬、遺体の捜索および処理、障害物の除去などが法律上明記されています。救助の実施主体は原則として都道府県知事であり、市町村長への事務委任も可能です。費用負担についても、まずは都道府県が支弁したうえで、その費用の総額が標準税収入の一定割合を超えた部分について、規模に応じて50%〜90%の範囲で**国が負担(国庫負担)**する仕組みとなっており、全額を国が直接負担する制度ではない点に注意が必要です。 災害弔慰金法は、災害で亡くなった方の遺族への弔慰金や、負傷者への見舞金の支給を定めています。「基本法は備え・責務・計画」「救助法は発災後の応急救助の実施と費用分担」「弔慰金法は金銭支給」と整理して覚えましょう。
医療法における5事業
医療法では、都道府県が策定する医療計画に5疾病5事業を位置づけることを義務づけており、災害時医療はこの5事業(救急医療・災害時医療・へき地医療・周産期医療・小児医療)の一つです。2024年度からは新興感染症が加わり、5疾病6事業+在宅医療となっています。
災害拠点病院
災害拠点病院は、阪神・淡路大震災(1995年)の教訓から1996年に制度化された病院で、災害時の医療体制の中核を担います。指定は都道府県知事が平時に行い、基幹災害拠点病院(都道府県に原則1か所)と地域災害拠点病院(二次医療圏に1か所以上)に区分されます。 主な機能は、24時間体制での重症傷病者の受入れ、広域搬送への対応、DMATの保有と派遣、地域医療機関への応急用医療資器材の貸与などです。施設要件として、耐震構造の病棟、72時間以上稼働可能な自家発電設備、3日分以上の食料・医薬品・飲料水の備蓄、ヘリポートの確保、衛星電話等の通信手段、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)への参画などが定められています。東日本大震災以降は事業継続計画(BCP)の策定も要件化されました。
災害医療チーム
災害医療は、活動時期と専門領域によって役割分担された複数のチームが連携して行われます。
DMAT
DMAT(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)は、阪神・淡路大震災での初期医療体制の遅れを教訓に2005年に発足した、災害急性期(概ね発災後48時間以内)に活動する機動的な専門医療チームです。医師・看護師・業務調整員で構成され、災害現場や被災地病院、広域搬送拠点でトリアージ、応急処置、被災地内外への傷病者搬送、医療情報の収集と伝達を担います。長期医療や復興支援はDMATの守備範囲外です。
その他のチーム
DPAT(災害派遣精神医療チーム)は精神科医療を担い、亜急性期以降に被災者や支援者のメンタルヘルスを支えます。JMAT(日本医師会災害医療チーム)と日赤救護班は亜急性期から慢性期にかけて、避難所や仮設診療所での診療を担当します。DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)は、被災自治体の保健医療調整本部を指揮・調整面から支援する専門チームです。
トリアージ
トリアージとは、多数傷病者の中から治療や搬送の優先順位を決定する手順です。識別票(トリアージタッグ)の色は、赤(最優先治療群)・黄(待機的治療群)・緑(軽症群)・黒(救命困難または死亡)の4区分です。START法(Simple Triage And Rapid Treatment)は、歩行・呼吸・循環・意識の順に約30秒で判定する一次トリアージ手法として広く用いられます。災害現場では原則CSCATTT(指揮・安全・通信・評価・トリアージ・治療・搬送)の枠組みで活動が展開されます。
まとめ
災害医療体制は、災害対策基本法を根拠とする防災計画の上に、医療法の5事業として位置づけられ、災害拠点病院が中核を担う構造になっています。災害拠点病院は都道府県知事が平時に指定し、DMATを保有して急性期医療を提供します。DMATは発災後48時間以内の急性期、DPAT・JMAT・日赤救護班は亜急性期以降と、活動時期で役割が分担されています。要配慮者の定義、トリアージの色区分、関連法規の棲み分けは国試で繰り返し問われるため、確実に押さえておきましょう。
確認問題(穴埋め)
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- 1.
災害急性期(概ね発災後48時間以内)に活動し、医師・看護師・業務調整員で構成される機動的な専門医療チームをという。
- 2.
災害拠点病院を平時に指定するのはである。
- 3.
災害拠点病院は阪神・淡路大震災を契機に年から制度化され、耐震構造・自家発電・3日分以上の備蓄・ヘリポートなどが施設要件として定められている。
- 4.
1961年に伊勢湾台風を契機として制定され、国・地方公共団体・住民の防災責務や備蓄の努力義務を定めた、日本の防災体制の基本法をという。
- 5.
災害対策基本法において、高齢者・障害者・乳幼児・妊産婦などの特に配慮を要する者をと定義している。
- 6.
医療法に基づく医療計画では、救急医療・へき地医療・周産期医療・小児医療とともにが5事業の一つに位置づけられている。
- 7.
トリアージタッグで最優先治療群を示す色はであり、救命困難または死亡を示す色は黒である。
- 8.
歩行・呼吸・循環・意識の順に約30秒で判定する一次トリアージ手法をという。
- 9.
被災者や支援者の精神科医療を担い、亜急性期以降に活動する災害派遣チームをという。
- 10.
災害救助法の目的は、「災害を受け又は受ける恐れのある者の保護と社会の秩序の」を図ることである。
- 11.
災害救助法に基づく救助の種類には、避難所の設置、食品・飲料水の供給、医療および、被災者の救出、遺体の処理などが含まれる。
- 12.
災害救助法による救助の実施主体は原則としてであり、費用はまず都道府県が支弁したうえで、その規模に応じて一部を国が負担する仕組みとなっており、全額を国が直接負担する制度ではない。
