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半側空間失認と転倒予防

看護師国家試験 第105回 午後 第94問 / 成人看護学 / 脳・神経系

国試問題にチャレンジ

105回 午後 第94問

Aさん(48歳、男性)は、横断歩道を歩行中に乗用車に衝突され、救命救急センターに搬送された。搬送時、呼びかけに開眼せず、四肢の筋緊張が亢進していた。呼吸数30/分、脈拍60/分、血圧142/98mmHgであった。右側頭部と右肩甲骨部の擦過傷以外に目立った外傷はなかった。Aさんは、硬膜下血腫(subdural hematoma)および脳挫傷(cerebral contusion)と診断され、硬膜下血腫(subdural hematoma)に対して開頭血腫除去術が行われた。ICUに入室後、マンニトールの投与が開始された。 術後14日。Aさんの意識レベルはジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅰ-2で、左上下肢に軽度の麻痺と左の視空間失認とがある。Aさんは座位を保持し、自力で食事を摂ることが可能となったが、左側の食べ物を残す様子がみられる。車椅子への移乗は看護師の介助が必要であるが、1人でベッドから降りようとする。Aさんは右利きである。 このときの適切な看護はどれか。

  1. 1.離床センサーを設置する。
  2. 2.右側を意識するように促す。
  3. 3.食器をAさんの左側に配置する。
  4. 4.残した食事は看護師が介助して口に運ぶ。
  5. 5.視空間失認が改善してから歩行訓練を開始する。

対話形式の解説

博士 博士

Aさんは右側頭部の外傷で硬膜下血腫と脳挫傷となり、術後14日で左片麻痺と左の視空間失認が残ったのじゃ。

アユム アユム

右の脳がやられると左に症状が出るんですよね。

博士 博士

その通り。錐体路は延髄で交叉するから対側に麻痺が出る。半側空間失認も右半球損傷で左側に生じやすい。特徴的な症状はわかるか?

アユム アユム

左側の食べ物を残す、左側の壁にぶつかる、時計の左半分を描けない、などですよね。

博士 博士

完璧じゃ。重要なのは本人に自覚がないことじゃ。では選択肢を見ていこう。1の離床センサーはどうじゃ?

アユム アユム

移乗に介助が必要なのに1人でベッドから降りようとしている状況ですから、転落の危険が大きいです。

博士 博士

正解じゃ。これが最も優先すべき安全対策で、今回の答えになる。2の『右側を意識するように促す』はどうじゃ?

アユム アユム

認識できないのは左側ですから、左側を意識させるべきですよね。

博士 博士

その通り。右側は健常に認識できておる。3の『食器を左側に配置』は?

アユム アユム

左側は認識できないので、食べ残しが増えてしまいます。

博士 博士

正解。初期は右側に置き、回復とともに中央、左側へと段階的に移していく。4の『看護師が口に運ぶ』は?

アユム アユム

右利きで右上肢に麻痺がないなら、自力摂取できるはずです。

博士 博士

うむ。食器を見える位置に置き直したり、『左側も見てみましょう』と声かけして気づきを促すほうが自立支援に繋がる。5の『失認が改善してから歩行訓練』は?

アユム アユム

廃用症候群を起こしてしまうので、早期離床が大切です。

博士 博士

その通り。筋力低下・関節拘縮・起立性低血圧を避けるため、安全を確保したうえで早期からリハビリを始める。

アユム アユム

離床センサーの他に転倒予防でできることはありますか?

博士 博士

ナースコールやティッシュなど生活用品は健側である右側に置き、移乗の動線を統一し、夜間照明を確保するなどの環境整備じゃ。また、廊下を歩くときは看護師が左側について声かけすると左側への気づきを促せる。

アユム アユム

失認のリハビリと安全対策を同時に進めていくんですね。

博士 博士

その通りじゃ。高次脳機能障害は見逃されやすいから、日常動作の観察が大切じゃ。

POINT

右半球損傷では左片麻痺と左半側空間失認を合併しやすく、本人に自覚がないため転倒・食事の食べ残し・衝突事故が起きやすくなります。移乗介助が必要な状態で単独行動する本症例では、離床センサー設置が最優先の安全対策となります。食器配置は健側(右)から開始し段階的に左へ移行、歩行訓練は早期から安全確保のうえで開始します。左側への気づきを促す声かけと環境整備がリハビリの柱です。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:Aさん(48歳、男性)は、横断歩道を歩行中に乗用車に衝突され、救命救急センターに搬送された。搬送時、呼びかけに開眼せず、四肢の筋緊張が亢進していた。呼吸数30/分、脈拍60/分、血圧142/98mmHgであった。右側頭部と右肩甲骨部の擦過傷以外に目立った外傷はなかった。Aさんは、硬膜下血腫(subdural hematoma)および脳挫傷(cerebral contusion)と診断され、硬膜下血腫(subdural hematoma)に対して開頭血腫除去術が行われた。ICUに入室後、マンニトールの投与が開始された。 術後14日。Aさんの意識レベルはジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅰ-2で、左上下肢に軽度の麻痺と左の視空間失認とがある。Aさんは座位を保持し、自力で食事を摂ることが可能となったが、左側の食べ物を残す様子がみられる。車椅子への移乗は看護師の介助が必要であるが、1人でベッドから降りようとする。Aさんは右利きである。 このときの適切な看護はどれか。

解説:正解は 1 です。Aさんは右半球(右側頭部の外傷部位)の損傷により左片麻痺と左半側空間失認(視空間失認)を呈しています。半側空間失認は左側の存在を認識できない高次脳機能障害で、食事の左側を残す、左側の障害物にぶつかるなどの特徴があります。加えて移乗は介助が必要なのに1人でベッドから降りようとする状況であり、転倒・転落リスクが高いため離床センサーの設置が最も適切です。

選択肢考察

  1. 1.  離床センサーを設置する。

    移乗に介助が必要な状態で1人でベッドから降りようとする行動は転倒・転落の重大なリスクです。離床センサーで早期に動きを察知し介助に入ることで事故を予防できるため最も適切です。

  2. × 2.  右側を意識するように促す。

    Aさんは左の視空間失認で左側を認識できていません。認識できている右側ではなく、認識できていない左側に注意を向けるよう促すのが正しい関わりです。

  3. × 3.  食器をAさんの左側に配置する。

    左半側空間失認があるため左側の食器は認識されず食べ残します。訓練初期は右側に配置し、回復に応じて徐々に中央・左側へ移すなど段階的に進めます。

  4. × 4.  残した食事は看護師が介助して口に運ぶ。

    右利きで右上肢に麻痺がないAさんは自力摂取が可能です。介助より食器の位置を変える・声かけで左側に気づかせるなど自立を支援する工夫が優先されます。

  5. × 5.  視空間失認が改善してから歩行訓練を開始する。

    長期臥床は廃用症候群(筋力低下・関節拘縮・起立性低血圧・認知機能低下)を招きます。失認の改善を待つのではなく、安全確保をしたうえで早期から歩行訓練を開始します。

半側空間失認は右半球損傷で左側に生じることが多く、本人に自覚がないのが特徴です。リハビリではまず存在に気づかせる『気づきの促進』が重要で、食器を右側に配置して完食後に残りを左側に移す、左側から声かけするなどの方法があります。転倒・転落予防には離床センサーに加えて、ベッド柵、ナースコールの右側(健側)設置、照明確保、移乗動作の統一が有効です。マンニトールは浸透圧利尿薬で脳浮腫を軽減し頭蓋内圧を下げる治療薬です。

右半球損傷による左片麻痺と左半側空間失認をもつ患者で、転倒リスクに対する予防策と失認への適切なリハビリ的関わりを問うている。