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クッシング現象を見抜け 脳圧亢進の危険サイン

看護師国家試験 第106回 午前 第116問 / 成人看護学 / 脳・神経系

国試問題にチャレンジ

106回 午前 第116問

Aさん(70歳、男性)。妻(74歳)と2人で暮らしている。Aさんがトイレに入ったまま戻ってこないので妻が見に行くと、トイレで倒れていた。妻が発見直後に救急車を要請した。救急隊からの情報ではジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20で右片麻痺があり、バイタルサインは、体温36.5℃、呼吸数16/分、脈拍108/分、血圧200/120mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO 2 〉96%であった。 頭部CTの結果、高血圧性脳出血( hypertensive cerebral hemorrhage )と診断され、集中治療室に入室した。入室時にはジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-30。体温37.0℃、呼吸数16/分、脈拍82/分、血圧154/110mmHg。入室から8時間後、体温37.2℃、呼吸数18/分、脈拍50/分、血圧208/106mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%になり、呼びかけと痛み刺激に開眼しなくなった。 このときのAさんの状態はどれか。

  1. 1.低酸素脳症( hypoxic encephalopathy )
  2. 2.脳圧亢進症状
  3. 3.髄膜刺激症状
  4. 4.正常圧水頭症( normal pressure hydrocephalus )

対話形式の解説

博士 博士

脳出血で入院したAさん、8時間後に意識がさらに低下し、血圧208mmHg、脈拍50/分。さて、これは何を意味するのじゃ?

アユム アユム

血圧が高くて脈が遅いって、なんだか変な組み合わせですね。

博士 博士

そう感じるのは鋭いのう。通常、出血や脱水では血圧が下がると脈は速くなる。それと逆の「高血圧+徐脈」は特別な意味を持つのじゃ。

アユム アユム

何が起きているんですか?

博士 博士

これは「クッシング現象(クッシング反射)」と呼ばれ、頭蓋内圧亢進の代表的徴候なのじゃ。

アユム アユム

クッシング現象?副腎皮質のクッシング症候群とは違うんですか?

博士 博士

良い質問じゃ。まったく別物。こちらは脳神経外科のクッシング先生が提唱した反射で、頭蓋内圧が上がったときに脳血流を保とうとして生じる生理反応じゃ。

アユム アユム

どうして血圧が上がるんですか?

博士 博士

頭蓋内圧が上がると脳灌流圧(CPP=MAP−ICP)が下がる。脳は血流を保つために体血圧を上げようとする。その結果、反射的に血圧が上昇するのじゃ。

アユム アユム

じゃあ徐脈は?

博士 博士

血圧が上がると頸動脈洞の圧受容器が反応して、副交感神経が働き脈が遅くなるのじゃ。

アユム アユム

なるほど、体が脳を守ろうとして起きる反応なんですね。

博士 博士

その通りじゃ。しかしクッシング現象が出るということは脳ヘルニアが近い、つまり非常に危険な状態ということじゃ。

アユム アユム

脳ヘルニアってどういう状態ですか?

博士 博士

脳組織が圧力に押されて、本来あるべき場所から別の空間にはみ出す現象じゃ。小脳扁桃ヘルニアでは延髄が圧迫されて呼吸停止に至ることもある。

アユム アユム

すぐに治療が必要ですね。どんな治療を?

博士 博士

浸透圧利尿薬のマンニトールや高張食塩水で脳浮腫を軽減する、頭部を30度挙上する、過換気で一時的に脳血管を収縮させる、そして場合によっては開頭減圧術じゃ。

アユム アユム

選択肢1の低酸素脳症はSpO2が97%で呼吸も安定しているから違いますね。

博士 博士

そうじゃ。低酸素脳症は心停止や窒息でPaO2が著しく下がった時の病態じゃ。

アユム アユム

髄膜刺激症状と正常圧水頭症は、そもそもくも膜下出血関連の話ですよね。

博士 博士

その通り。髄膜刺激症状は項部硬直やケルニッヒ徴候、激しい頭痛が特徴。正常圧水頭症は慢性経過の三徴(認知障害・歩行障害・尿失禁)じゃから、急性期の状況には合わん。

アユム アユム

クッシング現象は「血圧上昇・徐脈・呼吸異常」が三徴だと覚えておきます。

博士 博士

素晴らしい。これが出たら脳神経外科緊急コール、じゃ。

POINT

脳出血などで頭蓋内圧が亢進すると、脳血流を維持しようとする代償反応として「血圧上昇・徐脈・呼吸異常」の三徴(クッシング現象)が生じます。本症例では意識低下に加え血圧208mmHg、脈拍50/分という典型的な所見を示しており、脳圧亢進症状と判断できます。SpO2は保たれており低酸素脳症は否定的、くも膜下出血に特徴的な髄膜刺激症状や、慢性期の正常圧水頭症とも臨床像が異なります。クッシング現象は脳ヘルニア直前の危険サインであり、浸透圧利尿薬、頭部挙上、呼吸管理、緊急減圧術など迅速な対応が必要です。この徴候を見逃さない観察力が神経救急看護の核心となります。

解答・解説

正解は 2 です

問題文:Aさん(70歳、男性)。妻(74歳)と2人で暮らしている。Aさんがトイレに入ったまま戻ってこないので妻が見に行くと、トイレで倒れていた。妻が発見直後に救急車を要請した。救急隊からの情報ではジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20で右片麻痺があり、バイタルサインは、体温36.5℃、呼吸数16/分、脈拍108/分、血圧200/120mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO 2 〉96%であった。 頭部CTの結果、高血圧性脳出血( hypertensive cerebral hemorrhage )と診断され、集中治療室に入室した。入室時にはジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-30。体温37.0℃、呼吸数16/分、脈拍82/分、血圧154/110mmHg。入室から8時間後、体温37.2℃、呼吸数18/分、脈拍50/分、血圧208/106mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%になり、呼びかけと痛み刺激に開眼しなくなった。 このときのAさんの状態はどれか。

解説:正解は 2 です。脳出血後8時間で意識レベルが低下(呼びかけ・痛み刺激に開眼しない=JCS Ⅲ)、血圧上昇(154→208mmHg)、脈拍低下(82→50bpm、徐脈)という変化を認める。この「意識障害+血圧上昇+徐脈」は頭蓋内圧亢進の代表的徴候であるクッシング現象(Cushing reflex)で、脳圧亢進症状そのものである。SpO2は保たれており呼吸状態も安定しているため低酸素脳症ではない。髄膜刺激症状や正常圧水頭症の典型像とも異なる。

選択肢考察

  1. × 1.  低酸素脳症( hypoxic encephalopathy )

    低酸素脳症は心停止・窒息などによる脳への酸素供給不足で起こるが、本症例はSpO2 97%、呼吸数18回/分と呼吸状態は保たれており、低酸素脳症を示唆する所見はない。

  2. 2.  脳圧亢進症状

    意識レベル低下、収縮期血圧上昇、脈拍低下(徐脈)の組み合わせはクッシング現象と呼ばれ、頭蓋内圧亢進の代表的徴候。脳出血の増大や脳浮腫による脳圧亢進が進行しており、脳ヘルニアに至る危険があるため緊急対応が必要。

  3. × 3.  髄膜刺激症状

    髄膜刺激症状(項部硬直、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候、激しい頭痛)はくも膜下出血や髄膜炎で出現する。本症例は脳出血であり、また徐脈・高血圧を伴う意識障害は髄膜刺激症状とは異なる病態。

  4. × 4.  正常圧水頭症( normal pressure hydrocephalus )

    正常圧水頭症は慢性経過で認知障害・歩行障害・尿失禁の三徴を呈する。くも膜下出血後の合併症として起こることがあるが、急性期の意識低下・高血圧・徐脈とは臨床像が全く異なる。

クッシング現象(クッシング反射)は頭蓋内圧亢進時に、脳血流を維持しようとする代償反応として生じる。①血圧上昇(特に収縮期)②徐脈③呼吸異常(チェーン・ストークス呼吸など)の三徴が古典的に知られる。脳ヘルニア直前の危険な状態で、速やかに浸透圧利尿薬(マンニトール、高張食塩水)、頭部挙上30度、呼吸管理、必要なら開頭減圧術などが行われる。瞳孔不同や対光反射消失、クッシング徴候の出現は脳神経外科医の緊急コールが必要なサインである。

頭蓋内圧亢進の典型徴候であるクッシング現象(意識低下・血圧上昇・徐脈)を認識できるかを問う問題。