運動性失語の家族支援 看護師が同席してモデルを示す
看護師国家試験 第106回 午前 第117問 / 成人看護学 / 脳・神経系
国試問題にチャレンジ
Aさん(70歳、男性)。妻(74歳)と2人で暮らしている。Aさんがトイレに入ったまま戻ってこないので妻が見に行くと、トイレで倒れていた。妻が発見直後に救急車を要請した。救急隊からの情報ではジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20で右片麻痺があり、バイタルサインは、体温36.5℃、呼吸数16/分、脈拍108/分、血圧200/120mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO 2 〉96%であった。 入院から4週が経過し、病状が安定して意識が回復した。Aさんは後遺症として運動性失語が残り、言葉がうまく発せられないため涙ぐむことがあった。妻は面会後「夫が話す言葉が分からず、どう接すればよいか分からない」と言って戸惑っていた。 妻に対する対応で最も適切なのはどれか。
- 1.「いつもどおり話をしてあげてください」
- 2.「看護師も同席してAさんとお話ししましょう」
- 3.「リハビリテーションで話せるようになりますよ」
- 4.「分かりやすい言葉で話しかけてあげてください」
対話形式の解説
博士
Aさんは脳出血の後遺症で運動性失語が残った。妻は「どう話せばいいか分からない」と戸惑っておる。
サクラ
運動性失語って、言葉が分からなくなる病気ですか?
博士
そこが誤解されやすいのじゃ。運動性失語(ブローカ失語)は「言葉の理解は比較的保たれるが、発語が困難」なタイプ。聞いて分かるのに、自分が話せないのじゃ。
サクラ
本人、さぞ辛いでしょうね。涙ぐむのも納得です。
博士
その通り。理解できるからこそ、伝えられない苛立ちや悲しみが強いのじゃ。家族もまたどう接していいか分からず困惑する。
サクラ
どのタイプの失語がどこの部位なんでしたっけ?
博士
復習じゃな。ブローカ失語は左前頭葉のブローカ野、ウェルニッケ失語は左側頭葉のウェルニッケ野じゃ。
サクラ
ウェルニッケ失語は流暢だけど意味不明、でしたよね。
博士
そう、ペラペラと話すけど意味が通らない「ジャーゴン」と呼ばれる発語が特徴じゃ。理解も悪い。両方やられたら全失語になるのじゃ。
サクラ
じゃあAさんの妻には、どう助言するのがいいんですか?
博士
ここがポイントじゃ。「いつもどおり話して」では失語の特性に合わず、妻もAさんも疲れ果ててしまう。
サクラ
「分かりやすい言葉で」はどうですか?
博士
運動性失語では「理解」は保たれておるから、分かりやすい言葉への言い換えよりも「返答しやすい問いかけ」のほうが重要なのじゃ。
サクラ
返答しやすい問いかけって、具体的には?
博士
「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問じゃ。「お茶飲みますか?」「はい」でOK。他に絵カード、ジェスチャー、文字盤、指差しなどじゃな。
サクラ
「リハビリで話せるようになる」と言ってしまうのはダメですか?希望を持たせたい気持ちも分かります。
博士
その気持ちは尊いが、医学的に保証できないことを断言するのは不誠実じゃ。期待を裏切った時の落胆も大きい。
サクラ
じゃあ正解は「看護師が同席する」ですね。
博士
そうじゃ。看護師が実際にAさんと会話するモデルを妻に見せることで、妻は具体的な関わり方を学べる。成功体験を共有することで不安も和らぐのじゃ。
サクラ
言語聴覚士とも連携するんですよね?
博士
その通り。STが訓練を担い、看護師は日常場面でSTの指導を活かすという役割分担じゃ。家族教育も多職種で行うのじゃ。
サクラ
失語症の人が一番辛いのは「分かるのに伝わらない」ことなんですね。
POINT
運動性失語(ブローカ失語)は左前頭葉の障害で、言語理解は比較的保たれるが発語が困難になる失語症です。家族は本人の言いたいことが読み取れず戸惑うため、看護師が同席して閉じた質問や絵カード、ジェスチャー、十分に待つ姿勢などのコミュニケーション技法を実演し、モデルを示すのが最も具体的で有効な支援となります。「いつもどおり」や「分かりやすい言葉で」といった抽象的助言、「必ず話せるようになる」という根拠のない保証はいずれも不適切です。失語症看護では言語聴覚士と連携しつつ、日常のあらゆる場面で患者の尊厳と表現の機会を保障する関わりが求められます。
解答・解説
正解は 2 です
問題文:Aさん(70歳、男性)。妻(74歳)と2人で暮らしている。Aさんがトイレに入ったまま戻ってこないので妻が見に行くと、トイレで倒れていた。妻が発見直後に救急車を要請した。救急隊からの情報ではジャパン・コーマ・スケール〈JCS〉Ⅱ-20で右片麻痺があり、バイタルサインは、体温36.5℃、呼吸数16/分、脈拍108/分、血圧200/120mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO 2 〉96%であった。 入院から4週が経過し、病状が安定して意識が回復した。Aさんは後遺症として運動性失語が残り、言葉がうまく発せられないため涙ぐむことがあった。妻は面会後「夫が話す言葉が分からず、どう接すればよいか分からない」と言って戸惑っていた。 妻に対する対応で最も適切なのはどれか。
解説:正解は 2 です。運動性失語(ブローカ失語)は左前頭葉のブローカ野の障害により、言葉の理解はできるが発語がうまくできない状態。家族は本人の言いたいことが読み取れず戸惑いやすい。看護師が同席してコミュニケーションを図ることで、①「はい/いいえ」で答えられる閉じた質問、②絵カード・ジェスチャー、③ゆっくり待つ姿勢など、具体的な関わり方のモデルを妻に示せる。実際に成功体験を共有することで、妻の不安を軽減し在宅での関わりへつなげる。
選択肢考察
-
× 1. 「いつもどおり話をしてあげてください」
発症前と同じ会話ではAさんは返答できず、もどかしさや悲嘆を増す。失語症患者には工夫されたコミュニケーション方法が必要で、「いつもどおり」では具体的な援助にならない。
-
○ 2. 「看護師も同席してAさんとお話ししましょう」
看護師が同席することで、閉じた質問、絵カード、ジェスチャー、十分な時間を与えるなど失語症に適したコミュニケーション技法を実際に見せることができる。妻にモデルを提供し、不安を軽減する最も具体的な支援。
-
× 3. 「リハビリテーションで話せるようになりますよ」
運動性失語のリハビリで改善は見込めるが、発症前の状態に完全に戻るとは限らない。安易に「話せるようになる」と保証することは虚偽の期待を与え、後の落胆を招く恐れがあり不適切。
-
× 4. 「分かりやすい言葉で話しかけてあげてください」
運動性失語は「言語理解は比較的保たれ、発語が困難」なタイプ。理解を助ける工夫ではなく、返答しやすい問いかけ(yes/no型や選択式)や待つ姿勢が必要。助言として具体性に欠け優先度が低い。
失語症の代表的なタイプとして、①ブローカ失語(運動性失語):左前頭葉、理解は比較的良好だが発語困難・努力性発語、②ウェルニッケ失語(感覚性失語):左側頭葉、流暢だが意味不明、理解が悪い、③全失語:両方の障害、④伝導失語:復唱障害、がある。コミュニケーション支援では、閉じた質問、絵・文字・ジェスチャー、ゆっくりと短く話す、十分に待つ、本人の発語を急かさない、などが基本。言語聴覚士(ST)との連携が重要。
運動性失語の特徴を踏まえ、戸惑う家族に対する具体的なコミュニケーション支援を選ぶ問題。
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