脳梗塞リハビリ期の心理支援 共感的傾聴の基本
看護師国家試験 第108回 午後 第95問 / 成人看護学 / 脳・神経系
国試問題にチャレンジ
次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性、会社員)は、妻(55歳)と2人暮らし。5年前から高血圧症(hypertention)、脂質異常症(dyslipidemia)を指摘され、降圧薬を内服していた。自宅で左半身に脱力感が出現し、救急車で搬送された。救急外来でCT及びMRI検査を行った結果、右中大脳動脈領域に脳梗塞(cerebral infarction)の所見が認められた。入院時は、グラスゴー・コーマ・スケール<GCS>E3V4M5、体温36.8°C、呼吸数16/分、脈拍66/分(不整)、血圧160/85mmHg、HbA1c5.8%、心電図では、RR間隔は不定で心拍数100/分であった。入院後、血栓溶解療法を受け、2日後からリハビリテーションが開始された。1週後には回復期リハビリテーション病棟へ転棟した。 入院から3週が経過し、リハビリテーションによって日常生活動作<ADL>は改善しているが、夜間は眠れず、食欲も低下している。Aさんは「なかなか良くならない。何もできなくなってしまった」と話している。 現在のAさんへの声かけで、最も適切なのはどれか。
- 1.「時間が経てば良くなりますよ」
- 2.「リハビリをがんばりましょう」
- 3.「同じ病気の患者さんをご紹介しますね」
- 4.「なかなか良くならないと感じているのですね」
対話形式の解説
博士
今日は脳梗塞発症から3週間経過したAさんへの声かけじゃ。ADLは改善しているのに「なかなか良くならない。何もできなくなってしまった」と訴えているんじゃ。
サクラ
選択肢は時間が経てば良くなる、リハビリ頑張りましょう、同じ病気の患者を紹介、なかなか良くならないと感じているんですね、の4つです。
博士
正解は4番じゃ。「なかなか良くならないと感じているのですね」という共感的応答じゃよ。
サクラ
なぜ共感的応答が最も適切なのですか。
博士
Aさんは身体機能の喪失に直面しておる心理的危機状態じゃ。こういう時には情報や励ましよりもまず気持ちを受け止めてもらうことが必要なんじゃ。
サクラ
フィンクの危機モデルというのを聞いたことがあります。
博士
よく知っておるのう。衝撃、防衛的退行、承認、適応の4段階があるんじゃ。Aさんは承認の段階で、自分が失ったものと向き合い苦悩している時期じゃ。
サクラ
では1番の「時間が経てば良くなりますよ」はなぜ誤りですか。根拠のない慰めになるから?
博士
その通り。脳梗塞の後遺症は個人差が大きく、回復を約束できない。安易な保証は「私の苦しみをわかっていない」と受け取られ、逆効果になる。
サクラ
2番の「リハビリをがんばりましょう」もダメなんですね。
博士
Aさんは既に懸命に頑張っておる。それに対して「がんばりましょう」は「もっと頑張れ」というプレッシャーになる。「何もできなくなってしまった」と自責しているAさんに追い打ちをかけるようなもんじゃ。
サクラ
3番のピアサポートはむしろ良い介入だと思ったのですが。
博士
良い質問じゃ。ピアサポートそのものは有効な介入じゃが、タイミングが大切なんじゃ。今のAさんは自分を受け入れられない時期じゃ。他の患者と比べて「あの人はあんなに出来るのに自分は…」と落ち込む危険がある。
サクラ
本人が前向きになってから紹介するんですね。
博士
その通りじゃ。共感的応答の技法を整理しておこう。反復、言い換え、感情の明確化、沈黙の活用、開かれた質問じゃ。Aさんへの声かけは反復の技法を使っておる。
サクラ
反復とはどのような技法ですか。
博士
患者の言葉をそのまま繰り返すことで「あなたの話を聴いていますよ」というメッセージを伝え、さらに気持ちを言語化してもらう技法じゃ。
サクラ
「夜眠れない」「食欲が低下」という症状もありますね。抑うつが強いようです。
博士
脳卒中後うつは発症後2〜3ヶ月にピークがあり、リハビリの妨げになる。必要に応じて精神科リエゾンや臨床心理士の介入、SSRIなどの薬物療法も検討されるんじゃ。
サクラ
共感的傾聴が信頼関係の基盤になるんですね。
博士
看護師はキュアよりケアの担い手じゃ。患者の苦しみに寄り添う姿勢こそが最大の支援となる。
POINT
脳梗塞発症後の回復期に患者が示す「何もできなくなってしまった」という喪失感は、障害受容過程における承認段階の苦悩である。この時期には情報提供や励ましよりも、共感的傾聴により感情の表出を促すことが最優先となる。フィンクの危機モデルにおける承認段階では、患者が失ったものの現実と向き合い深い悲嘆を経験するため、看護師は反復や感情の明確化といった共感技法を用いて信頼関係を築く。脳卒中後うつの評価と必要に応じた専門職連携も重要である。
解答・解説
正解は 4 です
問題文:次の文を読み問いに答えよ。 Aさん(58歳、男性、会社員)は、妻(55歳)と2人暮らし。5年前から高血圧症(hypertention)、脂質異常症(dyslipidemia)を指摘され、降圧薬を内服していた。自宅で左半身に脱力感が出現し、救急車で搬送された。救急外来でCT及びMRI検査を行った結果、右中大脳動脈領域に脳梗塞(cerebral infarction)の所見が認められた。入院時は、グラスゴー・コーマ・スケール<GCS>E3V4M5、体温36.8°C、呼吸数16/分、脈拍66/分(不整)、血圧160/85mmHg、HbA1c5.8%、心電図では、RR間隔は不定で心拍数100/分であった。入院後、血栓溶解療法を受け、2日後からリハビリテーションが開始された。1週後には回復期リハビリテーション病棟へ転棟した。 入院から3週が経過し、リハビリテーションによって日常生活動作<ADL>は改善しているが、夜間は眠れず、食欲も低下している。Aさんは「なかなか良くならない。何もできなくなってしまった」と話している。 現在のAさんへの声かけで、最も適切なのはどれか。
解説:正解は 4 です。Aさんは脳梗塞後の機能障害とそれに伴う喪失感から抑うつ状態にあると考えられ、共感と傾聴を基盤としたコミュニケーションが最優先となります。「なかなか良くならないと感じているのですね」という反復・共感の応答は、患者の感情を受容する姿勢を示し、信頼関係構築と本音の表出を促します。焦らず患者の気持ちに寄り添うことがこの時期の看護の基本となります。
選択肢考察
-
× 1. 「時間が経てば良くなりますよ」
安易な保証や根拠のない励ましは、患者の苦しみを軽視していると受け取られ、かえって信頼関係を損ないます。脳梗塞の後遺症は個人差が大きく回復を約束できないため、不誠実な声かけとなります。
-
× 2. 「リハビリをがんばりましょう」
既に懸命に取り組んでいるAさんに対し「がんばりましょう」と声をかけるのはプレッシャーを与え、「もっと頑張らねばならない」という自己否定感を強める可能性があり適切ではありません。
-
× 3. 「同じ病気の患者さんをご紹介しますね」
ピアサポートは有効な介入ですが、現状を受け入れられていない時期に紹介すると他者と比較して落ち込む危険があります。本人が前向きになり始めた時期に提案するのが適切です。
-
○ 4. 「なかなか良くならないと感じているのですね」
患者の言葉を反復し感情を受容する共感的応答です。まず気持ちに寄り添うことで信頼関係が築かれ、本音の表出や心理的支援の糸口となります。危機介入理論でもこの段階では共感が最優先です。
フィンクの危機モデルでは、障害受容の過程を(1)衝撃、(2)防衛的退行、(3)承認、(4)適応の4段階で捉えます。Aさんは発症3週でADL改善中だが「何もできなくなってしまった」と語っており、承認の段階で喪失体験と向き合い苦悩している時期と考えられます。この時期は無理な励ましや情報提供よりも、共感的傾聴により感情の表出を促すことが最も重要です。看護師の共感的応答の基本技法には、反復(リフレクション)、言い換え、感情の明確化、沈黙の活用などがあります。抑うつが強い場合は精神科リエゾンや臨床心理士の介入、SSRIなどの薬物療法も検討されます。
脳梗塞後のリハビリ期における心理的危機状態にある患者への共感的コミュニケーションの重要性を問う問題です。
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