『らいじょうぶ』が示す赤信号、失語と構音障害の見分け方
看護師国家試験 第109回 午前 第118問 / 成人看護学 / 脳・神経系
国試問題にチャレンジ
次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 75 歳、女性)は、脂質異常症( dyslipidemia )と高血圧症( hypertension )で通院中で、定期受診のため、外来待合室で順番を待っていた。Aさんは、待合室の雑誌を取ろうと立ち上がり、歩こうとしたところ、右足が思うように動かず引きずって歩いた。外来看護師が声をかけると、Aさんは「らいじょうぶ」と返答したが、ろれつが回らなかった。 この時のAさんの症状はどれか。
- 1.痙縮
- 2.失語
- 3.構音障害
- 4.パーキンソニズム
対話形式の解説
博士
外来待合室でのAさんの場面じゃ。右足を引きずり『らいじょうぶ』とろれつが回らない。即座に脳卒中を疑う場面じゃのう。
アユム
高血圧と脂質異常症で通院されているんですね。動脈硬化のリスクが積み重なっている方です。
博士
そうじゃ。ここで問われているのは、『ろれつが回らない』という症状を何と呼ぶかじゃ。
アユム
選択肢は痙縮、失語、構音障害、パーキンソニズム。似たような言葉が並びますね。
博士
一つずつ整理しよう。痙縮とは何じゃ?
アユム
錐体路障害で筋緊張が亢進して、手足が突っ張る状態ですよね。脳卒中後遺症としてよく出てきます。
博士
正解。ただし『ろれつが回らない』は発語の異常で、痙縮とは別概念じゃ。
アユム
失語と構音障害の違いが難しいです。
博士
ここが本問の肝じゃよ。失語は言語中枢の障害で、言葉そのものが出てこない、あるいは理解できない状態。構音障害は発語器官の筋肉の運動制御の障害で、言葉は作れているが音が歪む。
アユム
Aさんは『大丈夫』と言いたかった言葉は選べていますよね。ただ『らいじょうぶ』になってしまっただけで。
博士
その通り。言語機能は保たれ、発音だけが崩れている。だから構音障害じゃ。
アユム
失語なら『大丈夫』という言葉自体が出てこなかったり、逆に『だいこん』など全く違う言葉になったりするんですね。
博士
うむ。優位半球の左中大脳動脈領域が障害されると運動性失語(ブローカ失語)や感覚性失語(ウェルニッケ失語)が生じる。これらはまず押さえておきたい。
アユム
パーキンソニズムはどうして違うのでしょう?
博士
パーキンソニズムは振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害など緩徐進行の症候群じゃ。Aさんのように急性発症の片麻痺様の症状とは経過が異なる。
アユム
Aさんの状態、急性発症の片麻痺と構音障害…これは脳梗塞を強く疑う場面ですね。
博士
その通り。脳卒中の早期発見キーワード『FAST』を知っておるか?
アユム
Face(顔の歪み)、Arm(腕の麻痺)、Speech(言葉の異常)、Time(発症時刻)ですね。
博士
正解。Aさんの場面は発症時刻を確認し、直ちに救急対応に移る必要がある。発症4.5時間以内ならt-PA静注、24時間以内なら血栓回収療法の適応を検討じゃ。
アユム
外来看護師の第一声で時刻を確認することが命を救うんですね。
博士
うむ。国試ではこういった用語を正確に使い分ける力と、臨床判断力の両方が問われるのじゃよ。
POINT
構音障害は、発声発語器官の運動制御障害により言語機能は保たれながら発音が不明瞭になる状態を指します。Aさんが『大丈夫』と言おうとして『らいじょうぶ』と音が歪んでいる所見は、言語機能は残っていて発音だけが崩れているため、失語ではなく構音障害にあたります。脂質異常症・高血圧を背景とする動脈硬化リスクに加え、急性発症の右下肢麻痺と構音障害を伴うことから脳梗塞が強く疑われる場面であり、FAST(Face・Arm・Speech・Time)に従って発症時刻を確認し、t-PA静注療法や血栓回収療法の適応を考慮する迅速な対応が必要です。用語の正確な識別と臨床判断力の両立が国試で問われる重要なテーマです。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:次の文を読み以下の問いに答えよ。 Aさん( 75 歳、女性)は、脂質異常症( dyslipidemia )と高血圧症( hypertension )で通院中で、定期受診のため、外来待合室で順番を待っていた。Aさんは、待合室の雑誌を取ろうと立ち上がり、歩こうとしたところ、右足が思うように動かず引きずって歩いた。外来看護師が声をかけると、Aさんは「らいじょうぶ」と返答したが、ろれつが回らなかった。 この時のAさんの症状はどれか。
解説:正解は 3 です。構音障害とは、発声発語器官(口唇・舌・軟口蓋・喉頭など)の運動制御が障害され、言葉の意味や言語機能は保たれているのに発音が不明瞭になる症状を指します。Aさんが『らいじょうぶ』と言葉を作れていること、つまり『大丈夫』という語は選べているが音が歪んでいる状態は、言語中枢の問題ではなく発音する筋肉の動きの問題であり、構音障害に合致します。脂質異常症・高血圧を背景に片側下肢の麻痺(右足を引きずる)を伴うことから、脳梗塞が強く疑われる状況といえます。
選択肢考察
-
× 1. 痙縮
痙縮は錐体路障害による筋緊張亢進で、伸張反射が亢進し手足がつっぱる状態。脳卒中後遺症として現れる運動障害であり、発音異常とは別概念。急性期のAさんの『ろれつが回らない』所見を説明する用語ではない。
-
× 2. 失語
失語は言語中枢(優位半球のブローカ野・ウェルニッケ野)の障害により、話す・聞く・読む・書くなどの言語機能自体が障害される状態。Aさんは『大丈夫』という言葉を選択して発話できているので、言語機能は保たれており失語ではない。
-
○ 3. 構音障害
言語機能は保たれているが発音が不明瞭になる状態で、脳梗塞、パーキンソン病、ALSなどで生じる。『らいじょうぶ』という音の歪みは、発語器官の運動制御障害による典型的な構音障害の所見である。
-
× 4. パーキンソニズム
パーキンソニズムは静止時振戦、筋強剛、無動・寡動、姿勢反射障害を特徴とする症候群で、突然発症する片麻痺様の症状とは経過が異なる。Aさんは急性の片側運動麻痺と構音障害であり、脳梗塞が示唆される。
Aさんの『片麻痺』『構音障害』『急性発症』『脂質異常症・高血圧』という組み合わせは、脳卒中の早期発見のための『FAST(Face・Arm・Speech・Time)』に合致する典型例である。顔の歪み、片側の上下肢麻痺、言葉の異常が1つでも急に現れたら、発症時刻を確認し速やかに救急受診・救急要請することが治療成績(発症4.5時間以内のt-PA静注療法、24時間以内の血栓回収療法など)に直結する。構音障害は延髄や橋、小脳、大脳皮質運動野、錐体路のいずれの障害でも起こる。失語は優位半球の言語野、典型的には左中大脳動脈領域の病変で生じる。両者は混在することもあるが、国試では『言葉は作れているが音が歪む=構音障害』『言葉自体が出ない・理解できない=失語』と対比的に押さえるとよい。
発語異常を示す専門用語の識別を問う問題。『失語(言語機能の障害)』と『構音障害(発音の障害)』の対比を明確に理解しておくことが核心。
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