中心静脈栄養と高血糖 口渇と倦怠感から読み解く
看護師国家試験 第106回 午後 第67問 / 成人看護学 / 消化器・栄養代謝系
国試問題にチャレンジ
Aさん(61歳、男性)は、水分が飲み込めないため入院した。高度の狭窄を伴う進行食道癌( advanced esophageal cancer )と診断され、中心静脈栄養が開始された。入院後1週、Aさんは口渇と 全身倦怠感を訴えた。意識は清明であり、バイタルサインは脈拍108/分、血圧98/70mmHgであった。尿量は1,600mL/日で、血液検査データは、アルブミン5g/dL、AST〈GOT〉45IU/L、ALT〈GPT〉40IU/L、クレアチニン1.1mg/dL、血糖190mg/dL、Hb11.0g/dLであった。 Aさんの口渇と全身倦怠感の要因として最も考えられるのはどれか。
- 1.貧血
- 2.低栄養
- 3.高血糖
- 4.腎機能障害
- 5.肝機能障害
対話形式の解説
博士
今回は状況設定問題じゃ。食道癌で中心静脈栄養中のAさんの症状の要因を考えるぞ。
サクラ
口渇と全身倦怠感ですね。検査値も色々出ています。
博士
まず状況を整理しよう。61歳男性、高度狭窄を伴う進行食道癌で水分も飲めない。だから中心静脈栄養(TPN)を開始。1週間後に口渇と倦怠感が出現したのじゃ。
サクラ
TPNって高カロリー輸液ですよね?
博士
そうじゃ。高濃度のブドウ糖(20〜50%)を含み、生命維持に必要なカロリーを静脈から補給する。問題は、大量のブドウ糖が一気に入ってくるため、インスリン分泌が追いつかず高血糖を来しやすいことじゃ。
サクラ
あ、血糖190mg/dLって書いてあります!基準は?
博士
空腹時基準は70〜110mg/dL。190は明らかな高血糖じゃ。
サクラ
でも口渇って糖尿病の症状ですよね?なぜ起こるんですか?
博士
メカニズムが大事じゃぞ。血糖が高いと尿細管でブドウ糖が再吸収しきれず尿中に漏れ出る。糖は浸透圧で水を引っ張るので、尿中の糖が水の再吸収を阻害し、多尿になる。これを『浸透圧利尿』という。
サクラ
多尿で体の水が減って、口渇になるんですね。
博士
その通り。尿量1,600mL/日もやや多め、脈拍108で頻脈、血圧98/70でやや低め。これらは脱水のサインじゃ。
サクラ
なるほど、検査値以外のバイタルも脱水を示してる!
博士
よい着眼点じゃ。そして全身倦怠感は、細胞内にグルコースが取り込まれずエネルギー利用が障害されるため生じる。
サクラ
他の選択肢も見ていいですか?貧血は?Hb11.0g/dLは低いですよね。
博士
男性基準13.5〜17.5に対して中等度貧血じゃが、貧血の主症状は動悸、息切れ、易疲労で、『口渇』は典型的ではない。
サクラ
低栄養は?
博士
アルブミン5g/dLは基準内(3.8〜5.3)。癌で水分摂取もできない状態なのに保たれているのは意外じゃが、TPNで栄養補給されている効果もあろう。
サクラ
腎機能と肝機能は?
博士
クレアチニン1.1はほぼ正常、AST45・ALT40は軽度上昇じゃが臨床的に問題となるほどではない。いずれも口渇の主因とは考えにくい。
サクラ
じゃあやはり高血糖が最有力ですね。
博士
その通り。TPNの代表的合併症じゃ。対策としては血糖モニタリング、インスリン混注、糖濃度の段階的漸増が重要じゃ。
サクラ
初日からいきなり大量の糖を入れないんですね。
博士
そうじゃ。また、急激な栄養投与で低リン・低カリウム・低マグネシウム血症を起こす『refeeding症候群』にも注意じゃ。
サクラ
他の合併症は?
博士
カテーテル感染、気胸、血栓、肝機能障害、腸管絨毛萎縮など多彩じゃ。TPNは命を支える反面、合併症管理が鍵となる。
サクラ
看護師の観察項目は?
博士
血糖、バイタル、尿量、体重、電解質、カテーテル刺入部、感染徴候をセットで観察じゃ。
POINT
中心静脈栄養(TPN)は高濃度ブドウ糖を含む高カロリー輸液のため、インスリン分泌が追いつかず高血糖を来しやすいことが最大の代謝合併症です。本症例では血糖190mg/dLと明らかな高血糖があり、浸透圧利尿による脱水から口渇・頻脈・血圧低下が、細胞内エネルギー利用障害から全身倦怠感が生じています。対策は血糖モニタリング、インスリン混注、糖濃度の段階的漸増、電解質管理で、他にカテーテル感染・気胸・refeeding症候群なども重要な合併症です。看護師はTPN患者の血糖値・バイタル・尿量・体重・電解質・刺入部を統合的に観察し、早期に異常を察知する役割を担います。状況設定問題では検査値と臨床症状を結びつける思考が得点のカギです。
解答・解説
正解は 3 です
問題文:Aさん(61歳、男性)は、水分が飲み込めないため入院した。高度の狭窄を伴う進行食道癌( advanced esophageal cancer )と診断され、中心静脈栄養が開始された。入院後1週、Aさんは口渇と 全身倦怠感を訴えた。意識は清明であり、バイタルサインは脈拍108/分、血圧98/70mmHgであった。尿量は1,600mL/日で、血液検査データは、アルブミン5g/dL、AST〈GOT〉45IU/L、ALT〈GPT〉40IU/L、クレアチニン1.1mg/dL、血糖190mg/dL、Hb11.0g/dLであった。 Aさんの口渇と全身倦怠感の要因として最も考えられるのはどれか。
解説:正解は 3 です。中心静脈栄養(TPN)は高濃度のブドウ糖(20〜50%)を含む高カロリー輸液であり、インスリン分泌が追いつかないと高血糖を来しやすい。Aさんの血糖値は190mg/dL(基準:空腹時70〜110mg/dL)と明らかに高値で、尿量1,600mL/日、脈拍108/分(頻脈)、血圧98/70mmHg(やや低め)も高血糖による浸透圧利尿と脱水を反映している可能性が高い。高血糖になると血中のブドウ糖が尿細管での水の再吸収を阻害し(浸透圧利尿)、多尿→脱水→口渇を生じる。また、細胞内へのグルコース取り込み障害やエネルギー代謝の乱れから全身倦怠感も生じる。
選択肢考察
-
× 1. 貧血
Hb11.0g/dLは男性基準値(13.5〜17.5g/dL)よりやや低いが中等度貧血。貧血では易疲労感・動悸・息切れを生じうるが、『口渇』は貧血の典型症状ではない。
-
× 2. 低栄養
アルブミン5g/dLは基準値内(3.8〜5.3g/dL)で、低栄養は否定的。また低栄養そのものが口渇の直接原因になることは少ない。
-
○ 3. 高血糖
正しい。血糖190mg/dLは高値で、中心静脈栄養による高血糖が疑われる。浸透圧利尿による脱水で口渇、細胞内エネルギー利用障害で全身倦怠感が生じる。頻脈、血圧低下も脱水を裏付ける。
-
× 4. 腎機能障害
クレアチニン1.1mg/dLは男性基準値(0.65〜1.09mg/dL)の範囲内〜軽度上昇程度で、尿量1,600mL/日も保たれている。腎機能障害は積極的には考えにくい。
-
× 5. 肝機能障害
AST45・ALT40IU/Lは軽度上昇だが臨床的に問題となるほどではなく、肝機能障害を主因とするには説明不十分。また肝機能障害で口渇は典型的ではない。
中心静脈栄養の合併症は大きく『カテーテル関連(カテーテル感染、気胸、血栓)』『代謝性(高血糖、電解質異常、肝機能障害、refeeding症候群)』『その他(腸管絨毛萎縮)』に分類される。高血糖対策として、血糖モニタリング(1日数回)、インスリン混注またはスライディングスケール投与、糖濃度の段階的漸増(初回は低めから開始)が重要。『口渇+多尿+頻脈+血圧低下』は脱水のサインで、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群に進展するリスクもあるので早期対応が必要。
中心静脈栄養中の患者に起こりやすい代謝性合併症『高血糖』を、検査値と症状から読み解く問題。血糖190mg/dLが最大のヒント。
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