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インシデントレポートは誰のため?医療安全文化の要

看護師国家試験 第109回 午前 第34問 / 基礎看護学 / 看護における基本技術

国試問題にチャレンジ

109回 午前 第34問

インシデントレポートで適切なのはどれか。

  1. 1.責任追及のためには使用されない。
  2. 2.インシデントの発生から 1 か月後に提出する。
  3. 3.主な記述内容はインシデントの再発防止策である。
  4. 4.実施前に発見されたインシデントの報告は不要である。

対話形式の解説

博士 博士

今回は医療安全の核、インシデントレポートについて学ぶぞ。『報告書を書かされる』というイメージを持つ学生も多いが、本来の目的は全く違うのじゃ。

アユム アユム

インシデントとアクシデントの違いから教えてもらえますか?

博士 博士

まずそこからじゃな。インシデントは患者に重大な影響が及ばずに済んだ事象、つまり『ヒヤリ・ハット』を含む事例。アクシデントは実際に患者に害が発生してしまった事故じゃ。

アユム アユム

インシデントレポートの目的は何ですか?

博士 博士

一言でいえば再発防止と安全文化の醸成じゃ。事例をデータとして集め、原因を分析し、同じ事故を起こさないようにシステムを改善する。個人を責めるためのものではない。

アユム アユム

でも現場では『反省文』みたいに扱われたりしませんか?

博士 博士

そう感じる人が多いからこそ、医療安全学では『非懲罰性』『無責性』が強調されておる。報告した個人が罰せられると、人は報告しなくなり、結果として潜在リスクが見えなくなって重大事故を招くのじゃ。

アユム アユム

ハインリッヒの法則ですね。1件の重大事故の背後に29件の軽微事故と300件のヒヤリ・ハットがあるという。

博士 博士

よく知っておる。だからこそ、実施前に発見したヒヤリ・ハットこそ貴重な情報源。これを報告しなくてよい、としてしまうと予防の芽を摘むことになる。

アユム アユム

選択肢4の『実施前に発見されたインシデントの報告は不要』は誤りなんですね。

博士 博士

その通り。実施前に気づけたのは『誰かの注意深さ』と同時に『システムのどこかに落とし穴があった証拠』なのじゃ。両面から学ぶのが医療安全じゃ。

アユム アユム

発生から1か月後に提出というのも違いますよね。

博士 博士

できるだけ早く、記憶が新しいうちに書くのが原則。時間が経つと細部があいまいになり、正確な分析ができなくなる。

アユム アユム

レポートの主な記述内容は再発防止策ではない、というのは少し意外でした。

博士 博士

レポートの主内容は事実経過じゃ。5W1Hで時系列に何が起きたかを記録する。再発防止策は、その事実を受けてチームや組織が考える次の段階の話なのじゃ。

アユム アユム

事故の原因分析ではシステム要因を見るんですね。

博士 博士

そうじゃ。スイスチーズモデルで有名なように、事故は個人のミスだけでなく、手順・教育・機器・組織文化など複数の要因の穴が重なって起きる。個人攻撃では再発を防げないのじゃ。

アユム アユム

影響度レベルの分類も覚えておく必要がありますか?

博士 博士

レベル0(実施前発見)〜5(死亡)まであり、日本ではレベル0〜2を『インシデント』、3以上を『アクシデント』として扱う施設が多い。国試でも出題されるから整理しておくとよい。

アユム アユム

非懲罰性の原則は、海外の航空業界の安全文化からヒントを得ていると聞きました。

博士 博士

その通り。パイロットの自己申告制度などがモデルになり、医療にも応用された。WHOも『報告しやすい環境づくり』を重視しておる。

アユム アユム

報告は自分を守るのではなく、未来の患者さんを守るためなんですね。

POINT

インシデントレポートは、事故またはヒヤリ・ハットを組織的に収集・分析し再発を防ぐための仕組みで、個人の責任追及ではなくシステム改善が目的です。非懲罰性・無責性を原則とし、実施前に気づいた事例(ヒヤリ・ハット)も重要な情報源として報告対象になります。提出は発生直後が望ましく、主な記述内容は5W1Hに基づく事実経過で、再発防止策はその分析から導かれる二次的要素です。ハインリッヒの法則やスイスチーズモデルが示すように、軽微な事象の集積が重大事故を防ぐ知恵となり、看護師一人ひとりの報告が患者安全の土台を築きます。

解答・解説

正解は 1 です

問題文:インシデントレポートで適切なのはどれか。

解説:正解は 1 です。インシデントレポートは医療事故や事故に至る可能性があった事例(ヒヤリ・ハット)を組織的に収集・分析し、同様の事故の再発防止につなげるための報告書である。目的は事例から学び、システム全体の安全性を高めることにあり、個人の責任追及や処分のために使用するものではない。個人を罰するために用いられてしまうと報告そのものが萎縮し、かえって安全文化が損なわれるため、国内外の医療安全指針でも『非懲罰性』『無責性』が原則とされている。

選択肢考察

  1. 1.  責任追及のためには使用されない。

    インシデントレポートは再発防止と安全文化の醸成のためのもので、非懲罰性を原則とする。

  2. × 2.  インシデントの発生から 1 か月後に提出する。

    提出はできるだけ早く、発生直後に行うのが原則。時間が経つほど記憶が曖昧になり、事実関係の把握や再発防止策の立案が難しくなる。

  3. × 3.  主な記述内容はインシデントの再発防止策である。

    主な記述内容は『誰が・いつ・どこで・何を・どのようにして、結果どうなったか』という事実経過であり、原因分析と再発防止策はそれを踏まえた二次的な記述となる。

  4. × 4.  実施前に発見されたインシデントの報告は不要である。

    実施前に発見された事例(ヒヤリ・ハット)こそ、事故未然防止のために重要な情報源であり、報告の対象となる。

医療安全の分野では、ハインリッヒの法則(1つの重大事故の背後に29の軽微事故と300のヒヤリ・ハットがある)が知られ、ヒヤリ・ハット段階での情報収集が重大事故予防に直結する。影響度レベルはレベル0(実施前発見)、1(実施されたが害なし)、2(観察強化が必要)、3a(軽度処置)、3b(濃厚処置)、4(永続的障害)、5(死亡)などに分類される。スイスチーズモデルやSHELモデルに基づき、個人ではなくシステム要因を分析するのが現代的アプローチである。

インシデントレポートの目的・非懲罰性、ヒヤリ・ハット(実施前発見事例)の位置づけを問う医療安全の基本問題。