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消化管症候と外科疾患

成人看護学 / 消化器系

解説

消化管症候とは、腹痛や嘔吐、排便異常など消化管に由来するさまざまな自覚症状・他覚徴候の総称です。今回は消化管症候の基本となる痛みの分類から、代表的な外科疾患である消化管穿孔、腸閉塞、痔瘻、鼠径ヘルニア、急性虫垂炎までを順に解説します。

腹痛の分類と発生機序

腹痛は発生機序によって内臓痛体性痛関連痛の三つに分類されます。それぞれの特徴を理解することで、原因臓器や緊急性を推定する手がかりが得られます。

内臓痛

内臓痛とは、胃や腸、胆嚢などの管腔臓器や実質臓器に分布する自由神経終末が刺激されて生じる痛みです。発生機序の中心は、管腔臓器の受動的な過伸展、平滑筋の過度の収縮、組織の虚血、そして炎症性化学物質による刺激の四つです。虚血が起こると乳酸やブラジキニンなどの発痛物質が蓄積し、求心性線維を興奮させます。一方で内臓には切開・灼熱・寒冷に反応する受容体が乏しいため、メスで切っても痛みを感じにくいという特徴があります。

内臓痛の臨床的特徴は、局在が不明瞭で鈍痛や疝痛様として知覚されること、そして悪心・嘔吐・冷汗・徐脈などの自律神経症状を伴いやすいことです。患者が「お腹のあたりが痛い」と漠然と訴え、痛みの最中に顔面蒼白や発汗を伴う場合は内臓痛を疑います。

体性痛

体性痛は、壁側腹膜や腸間膜、横隔膜などに分布する体性神経が刺激されて生じる痛みです。炎症が壁側腹膜にまで及ぶことで現れ、鋭く限局した痛みとして自覚されます。咳や深呼吸、体動によって増悪し、患者は身体を動かさないようにじっと横たわる傾向があります。

関連痛

関連痛は、内臓由来の痛みが体表の遠隔部位に放散して感じられるものです。内臓求心路と体性神経が同じ脊髄後角に収束するために生じます。心筋梗塞での左肩や下顎への放散痛、胆石発作や胆嚢炎での右肩への放散痛が代表例です。

腹膜刺激症状と消化管穿孔

壁側腹膜の炎症を反映する所見を腹膜刺激症状(腹膜炎徴候)と呼びます。代表的なものに、腹壁を押すと反射的に腹筋が緊張する筋性防御(デファンス)、押した手を急に離した瞬間に痛みが増強する反跳痛(Blumberg〈ブルンベルグ〉徴候)、咳をするだけで腹痛が誘発される咳テスト、踵を持ち上げて落とすと響くように痛む踵落とし試験などがあります。これらを認めた場合は急性腹膜炎の存在を強く疑います。

消化管穿孔は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の穿通、大腸憩室や腫瘍の破裂などによって消化管壁に孔が開き、内容物が腹腔内に漏出する病態です。突然発症する激しい上腹部痛と冷汗を呈し、急速に汎発性腹膜炎に進展してショックへ移行します。立位胸腹部単純X線で横隔膜下にfree air(遊離ガス像)を認めれば穿孔が確定的となり、緊急手術の適応です。看護では血圧・脈拍・呼吸の継続観察と絶飲食、輸液路の確保が優先されます。

腸閉塞(イレウス)

腸閉塞とは、何らかの原因で腸内容の通過が障害された状態をいいます。物理的に腸管が閉塞する機械的腸閉塞と、腸管運動が低下する機能的(麻痺性)腸閉塞に大別されます。機械的腸閉塞はさらに、血流障害を伴わない単純性と、血流障害を伴う絞扼性に分けられ、絞扼性は腸管壊死の危険があるため緊急手術の絶対適応です。

主症状は腹痛、嘔吐、腹部膨満、そして排ガス・排便の停止の四徴です。閉塞部より口側に消化液とガスが貯留し、聴診では金属音を聴取することがあります。

治療の基本は絶食と十分な補液で腸管を休ませ、電解質異常を補正することです。減圧目的で経鼻的にイレウス管を挿入し、先端を小腸まで進めて貯留物を持続吸引します。これにより改善しなければ手術を行います。看護ではバイタルサイン、腹痛の性状、排液の量と色調を観察し、血性排液や激しい持続痛が出現すれば絞扼性を疑って速やかに報告します。

便の性状と消化管出血

便の色調は出血部位の推定に有用です。タール便(黒色便)は、上部消化管(食道・胃・十二指腸)からの出血血液が胃酸や腸内細菌でヘマチン化したもので、粘稠で悪臭を伴います。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、食道静脈瘤破裂、胃癌などが原因となります。これに対し鮮血便は下部消化管(大腸・直腸・肛門)からの出血を示し、痔核、大腸癌、潰瘍性大腸炎などで認められます。胆汁の排泄が障害されると便はステルコビリンを失って灰白色便となり、胆道閉塞や閉塞性黄疸を示唆します。

なお、健診などで実施される便潜血検査は肉眼では確認できない微量の消化管出血を検出する検査で、大腸癌のスクリーニングに広く用いられています。便潜血陽性となった場合は、出血源を特定するための精密検査として大腸内視鏡検査第一選択となります。大腸内視鏡検査では大腸全体を直接観察できるうえ、ポリープや早期癌が見つかれば生検や内視鏡的切除も同時に施行できるため、診断と治療を兼ねた検査として重要な位置づけにあります。

痔瘻

痔瘻とは、肛門管と肛門周囲の皮膚との間に異常な瘻管(トンネル状の通路)が形成される疾患です。先天性疾患ではなく、肛門陰窩(歯状線にある小さなくぼみ)への細菌感染を起源とする後天性疾患である点が特徴です。肛門陰窩から侵入した細菌が肛門腺に感染して肛門周囲膿瘍を形成し、膿瘍が自壊あるいは切開排膿された後に瘻管として残ったものが痔瘻です。

主症状は肛門周囲の疼痛、発赤、腫脹、発熱に加え、瘻孔からの持続的な膿性分泌物の流出です。痔瘻は自然治癒が期待できず、根治には手術療法が原則となります。代表的な術式には瘻管を切開開放する開放術式や、括約筋温存を目的とした括約筋温存術式(くりぬき法など)があります。

さらに、長期間放置された痔瘻ではきわめて稀ながら瘻管上皮から悪性化が生じ、痔瘻癌(粘液癌などの悪性腫瘍)を発生することがあります。長期経過例では悪性化の可能性を念頭に置いた経過観察が重要です。

鼠径ヘルニアと急性虫垂炎

鼠径ヘルニアは、腹腔内臓器が鼠径部の腹壁脆弱部から皮下に脱出する疾患です。外鼠径ヘルニアは内鼠径輪から鼠径管を通って脱出するタイプで、先天的な腹膜鞘状突起の遺残が背景にあり若年から中年に多くみられます。内鼠径ヘルニアは下腹壁動静脈の内側にあるHesselbach(ヘッセルバッハ)三角の腹壁から直接脱出するタイプで、加齢による腹壁の脆弱化により中高年男性に多くみられます。脱出した腸管が還納されず血流障害を起こした状態を嵌頓といい、緊急手術の適応です。

急性虫垂炎は若年者に多い代表的な急性腹症で、初発症状は心窩部や臍周囲の漠然とした内臓痛として始まり、数時間のうちに炎症が壁側腹膜に及んで右下腹部の限局性体性痛へと移動するのが典型的な経過です。右下腹部のMcBurney(マックバーニー)点の圧痛、左下腹部を圧迫すると右下腹部が痛むRovsing徴候、左側臥位で右下腹部の圧痛が増強するRosenstein徴候などが診断の手がかりとなります。穿孔して汎発性腹膜炎に至る前に外科的に切除することが原則です。

大腸切除術と腹腔鏡下手術

大腸癌などに対する外科治療では、近年腹腔鏡下手術が広く行われています。腹腔鏡下手術では術野を確保するために気腹法が用いられ、腹腔内に**二酸化炭素(CO2)**を注入して腹壁を持ち上げ、内部に十分な操作空間を作ります。CO2は血液に溶けやすく、万一血管内に迷入しても空気塞栓のリスクが少ないため気腹用ガスとして選択されています。気腹中は腹腔内圧の上昇により横隔膜が挙上して換気が制限されるほか、迷走神経反射による徐脈や、CO2吸収による高炭酸ガス血症をきたすことがあり、術中・術後はバイタルサインや呼吸状態の観察が重要です。

大腸切除術後は、切除部位に応じた消化機能の変化が生じます。結腸の主な働きは内容物から水分と電解質を吸収して便を固形化することであり、特に左半結腸(下行結腸・S状結腸)はこの水分吸収を担う部位です。そのため左半結腸切除術後は水分吸収機能が低下し、便が固まりにくく下痢傾向となりやすい点が特徴です。術後の患者には脱水や電解質異常に注意するとともに、便の性状の変化が一時的な術後変化であることを説明し、食事内容や水分摂取の工夫を指導することが大切です。

ここまで、腹痛の分類から代表的な消化管の外科疾患、便潜血陽性時の精密検査、腹腔鏡下手術の特徴、結腸切除術後の機能変化までを整理しました。症候の発生機序と外科疾患の特徴を結びつけて理解することで、術前術後の観察ポイントや患者説明にいかすことができます。

確認問題(穴埋め)

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  1. 1.

    管腔臓器の過伸展や平滑筋の過収縮、虚血によって生じる、局在不明瞭で自律神経症状を伴いやすい痛みをという。

  2. 2.

    壁側腹膜の刺激により生じ、鋭く限局して咳や体動で増悪する痛みをという。

  3. 3.

    腹壁を押した手を急に離した瞬間に痛みが増強する腹膜刺激症状を(反跳痛)という。

  4. 4.

    消化管穿孔では立位胸腹部単純X線で横隔膜下にを認めることが診断の決め手となる。

  5. 5.

    腸閉塞の四主徴は腹痛、嘔吐、腹部膨満、およびである。

  6. 6.

    機械的腸閉塞のうち血流障害を伴い緊急手術の適応となるものを腸閉塞という。

  7. 7.

    上部消化管出血により胃酸や腸内細菌の作用で血液がヘマチン化して生じる黒色便をという。

  8. 8.

    胆汁排泄障害により生じる白っぽい便をという。

  9. 9.

    下腹壁動静脈の外側にある内鼠径輪から鼠径管を通って脱出する鼠径ヘルニアをという。

  10. 10.

    急性虫垂炎で典型的に圧痛が最も強くなる右下腹部の部位を(マックバーニー点)という。

  11. 11.

    痔瘻は先天性疾患ではなく、への細菌感染を起源とする後天性疾患である。

  12. 12.

    痔瘻は自然治癒が期待できず、根治には療法が原則である。

  13. 13.

    長期間放置された痔瘻からは稀に悪性腫瘍であるが発生することがある。

  14. 14.

    便潜血陽性が確認された場合、出血源検索の精密検査として第一選択となるのはである。

  15. 15.

    腹腔鏡下手術では術野確保のために腹腔内に(CO2)を注入する気腹法が用いられる。

  16. 16.

    左半結腸切除術後は結腸の水分吸収機能が低下するため、便が固まりにくく傾向となりやすい。

消化管症候と外科疾患」の過去問演習

※公式問題・正答は厚生労働省公開資料をもとに整理しています。